経営層の「GO」が出た提案数は3倍以上に 独自開発AIツールの効果
Ringの原点は人間の内発的な動機にある。その一方で、時代の変化に合わせて新たなテクノロジーを取り入れた制度変革も行われてきた。この数年、特にAIの導入には積極的だ。社員を主人公の桃太郎に見立て、その強力な仲間としてプランニングを支援する「AIかべうちサル(旧『AIかべうち君』)」、調合調査を行う「AIしらベるイヌ」、提出前レビューをする「AIみなおしキジ」といったツールを次々に打ち出してきた。
ところが「1年前に導入したAIツールは、その役割を終えつつある」と宗藤氏。当時は未経験者の入口として役立ったが、すぐに社員のAIリテラシーが上がった。宗藤氏らが用意したAIツールがなくとも、自ら仮説を立てた上でGeminiなどと自然に壁打ちをしているのが現状だ。
AIとの対話を通じて創造性が磨かれるともいわれるが、まだ懐疑的な視線も少なくない。しかし、宗藤氏によればAIの導入効果は提案の質に顕著に表れているという。たとえば、論理的に不整合な提案の割合は14%から6%に減少。事業計画書に予想されるブレークスルーポイントと解決策まで具体的に記載されている割合は、3%弱から17%へと大幅に上がった。結果的に、経営層がGOサインを出した提案数は1年前と比較して3倍以上に増えている。
こうした状況を受けて、リクルートのRingでは2026年度から新たに「BACKCAST AI」を開発・導入した。これは、2030年から逆算した未来シナリオと他社が考え得る新規事業案、リクルートとして考えるべき問いをAIが提示することで、新規事業案の発想を促すAIツールだ。「提示される内容はかなりヒリヒリするように設定した」と宗藤氏は話す。たとえば「この法律が変わるとこんな競合の出現が考えられる」といった具合だ。
一方で、「BACKCAST AI」は解決策までは提示しない。あくまでも社会・政治・テクノロジーの変化予測、それを踏まえた兆しや他社の動きの予測を提示するまでだ。「意思を持つのは起案者本人である」という同社の考えに基づく。
アイデア出しを支援するAIだけでなく、Ringのプログラム自体も大きく変わった。AIによるカスタマー行動変容を起点とした「カスタマーAI部門」、社内の投稿型AIハッカソンの「Hack」の2つが新設されたのだ。カスタマーAI部門は、これまで行われてきた年に1回の「自由テーマ部門」とは異なり通年募集、月次審査。なおかつ、今までのRingでは社内審査が主だったが、カスタマーAI部門は社外の一般生活者のフィードバックを受け、その反応を起点に事業化を判断する。
「検索するという行動が『AIに相談する』に変わってきています。さらに、今や企業のさまざまな業務や日常生活の行動がAIに置き換えられ始め、恋人との別れ話を代行するAIエージェントまで登場しているのです。近い将来、AtoA(Agent to Agent)が当たり前になる。我々は、その変化に対応するアイデアを求めています」
そんな未来志向と並行して宗藤氏が目をつけているのが、40年以上続くRingの歴史の中で生まれた過去のアイデアたちだという。それはなぜか──。
