仕事は置き換えられる。ただし「失業」とイコールではない
藤井(AIdiver編集部):「AI失業」という言葉が広まっていますが、日本で本当に起こり得るのでしょうか。実態をどう捉えていますか。
法政大学・大学院 教授 田中研之輔氏(以下、たなけん):今やAIは、プロンプトを打つだけでホームページが作れたり、私でも授業の出欠システムを自分で構築できたりするほど、日常生活に浸透しています。となると、これまでそうした業務をプロとして担っていた人たちの仕事は、たしかに代替されていく。AIによって仕事が置き換えられるというのは、嘘ではありません。
ただし、日本の大企業においては必ずしも「置き換え=即失業」とはならないでしょう。100人で対応していたバックオフィス業務が、AIを導入したことにより10人で済むようになれば、残り90人はどこに行くのか。欧米の雇用契約なら解雇もあり得ますが、日本には解雇規制があります。だとすれば、企業側がその90人に向けた新しい事業やフィールドを作り出すことが、まず問われる。つまり、AI失業はせずともジョブを変える必要はある、ということです。
藤井:しかし、これまでとはまったく異なる職種、たとえばバックオフィス業務の方々が営業のようなフロントオフィスに移ることは、心理的ハードルが高いのではないでしょうか。
たなけん:そのとおりです。単に「異動させれば解決」というほど単純な話ではありません。業務が変われば求められるスキルも変わります。なんの準備もなく異動しても、本人が戸惑うだけです。仮にAI関連の部署に移るのであれば、たとえば1〜3ヵ月の社内トレーニング期間を企業側が設けるべき。異動と能力開発をセットで設計することが非常に重要です。
我々は後天的にいくらでも新しいことができるようになる。それを忘れてはなりません。ChatGPTやClaudeを触ってみたら「意外と自分でも使えた」という経験、皆さんも持っているのではないでしょうか。
通常、キャリアは個人のことだと捉えられていました。キャリア相談をしても「あなたはどうしたいですか」「上司との関係性はどうですか」といった問いかけが多い。もちろんそれも間違いではありませんが、企業側にも個人に対するアプローチが求められます。社員のパフォーマンスが低迷している場合に、個人の特性や能力の問題で片付けない。組織として個人の能力を開発させるための方法を考えなければ。そこに戦略的に投資していくことは重要な視点です。
一方で、契約社員や派遣労働者はAI失業のリスクにさらされることになります。今年度から実際に起こり得ると私は見ています。その業務自体がなくなってしまった場合、個人は自力で次の仕事を探さなければならない。一つの仕事しかやってこなかった人がいきなり新しい仕事に挑戦するのは、心理的ハードルが高い。だからこそ、今から小さくてもいいので、新しいことに継続的にチャレンジしておくことが必要なんです。
仕事というのは、年齢を重ねてできることを固めていくのではなく、増やしていくもの。「ライフロング」ならぬ「ライフワイド」なのです。日本の終身雇用では一つの仕事を追求して極めていきますが、これは非常にリスクが高い。そのままAIが代替してしまうかもしれません。難しい分析はAIに任せられるからこそ、今までやったことがなくても挑戦してみるべきです。
