キャリアを捨てる恐怖をどう乗り越える? 「複線型」という考え方
藤井:つまり、専門家と呼ばれる方々、スペシャリストとして一つの分野を極めることはAI時代にリスクが高いのでしょうか。
たなけん:専門性を一つではなく、できれば三つ程度育てていくという考え方です。たとえば、有名なスポーツ選手も競技引退後の人生があり、チーム経営やコメンテーターとして活動するケースが珍しくありません。彼らのような突出したスペシャリストでも、人生という尺度で見れば「複線型キャリア」を選んでいるわけです。これが、私が長年普及させてきた「プロティアン・キャリア」というものです。
プロティアン・キャリアとは
1976年にボストン大学のダグラス・ホール教授が提唱したキャリア概念。組織に依存せず、自らの価値観と環境変化に応じてキャリアを柔軟に形成していく考え方を指す。
たなけん:複線型を日頃から意識していくことは、強力なセーフティネットになります。私自身も大学教員・自社経営・企業顧問という3つの柱を持っています。何が起きても、精神的にも事業的にもリスクヘッジが効いている状態にしておくことが、キャリア形成上、賢い選択肢だと思っています。
複線型でも、これまでやってきたことを忘れるわけはありません。自転車をイメージすると分かりやすいでしょう。誰もが最初は難しかったのが、今では長年乗っていなくても無意識に運転できますよね。同じようなことが何歳からでも始められるのです。
それにもかかわらず、40歳を超えてくるとチャレンジしなくなる。なぜならば、組織の中で失敗しづらい立場になってしまっているからです。あるいは「この専門はあの人だよね」と役割が固まってしまっている。ここで一ついえるのは、AIはそういった固められたキャリアを根こそぎ転換させ得るということです。完全ではなくとも、大部分はAIに代替されると想定した上で、生まれる余力をいかに次のスキルやキャリア形成に当てていくか。それを考えるタイミングではないでしょうか。
藤井:すでに40〜60代で管理職になっている人が「今さら新しいことを」と感じるのは想像ができます。今まで積み上げてきたものを捨てるような感覚になることも多いのでは。
たなけん:非常に重要なポイントです。まずは先ほどお伝えしたとおり「やってきたことはなくならない」という捉え方が大事です。300人いれば300通りのキャリア資本がある。その資本はちゃんと積み上がっています。それを土台にして次に何をするかを考えるのです。
40〜60代はマネジメント経験があり、OJTで人を育ててきた経験もある。通常で考えれば20代のプレイヤーより多くのキャリア資本が貯まっている可能性が高い。問題は「固まってきた」と感じることで、実際にはその資本を新しいフィールドに接続していく練習が必要なんです。
私も実際にやっていますが、2週間に1回5分でいいので、向こう半年間に何をしていきたいか考えてみてください。今までのキャリアは過去にフォーカスされてきました。キャリア相談でも「あなたは何をやってきましたか」と問われる。しかし、AI失業時代は未来志向に転換すべきです。企業や経営者は皆、未来志向で中期経営計画を立てていますよね。途中で変更したっていい。同じように“これから”のプランを練ってみてください。
