AI経営とは「未来を予測して自動で最適化する」。思考の限界コストがゼロになる
押久保(AIdiver編集部):AIを経営にどう生かすか、各社が試行錯誤している最中だと感じます。榊さんは現時点で「AI経営」をどう定義していますか。
榊:従来のデータドリブン経営は、過去を可視化して、その結果を人が見てどういうアクションを取るかを考える、というものでした。それに対してAI経営は、もう一歩超えて、未来を予測して、その結果を自動で最適化するというステージへの移行だと考えています。

私たちは生成AIが出る前からデータドリブン経営に取り組んできましたが、2024年以降のアップデートは凄まじく、人間の思考も生成AIが大体できるとわかってきました。
押久保:その本質的な変化を、ひと言で言うと何でしょうか。
榊:生成AIによる本質的な変化は、「ヒトの思考の限界コストがゼロになる」こと。つまり、これまで人が時間をかけて考えていたことを、AIがほぼ無料で、いくらでもやってくれるようになる、ということだと思っています。
これまで人間が時間をかけて行っていた分析やオペレーションが、瞬時に終わる。それによって経営のスピードが爆速化します。
社長にとって事業の構造を理解することは一番大事な仕事ですが、その理解はいつも100点にはなりません。ところが生成AIを使うと、ほぼ100点の理解に近づける。これはすごいことです。
押久保:人間が見る軸には限界があります。
榊:事業を理解するときは、エリア別はどうか、ヘビーユーザーはどうか、高単価の商品は売れているか、といろいろな軸で見ます。でも人間が見られる軸は有限です。
生成AIはありとあらゆる角度で分析できますから、その結果を見ているだけでもかなりの学びになります。
ウォール街のトレーダーが消えた理由。非構造化データの理解がもたらす新常識
押久保:生成AIの登場の「前」と「後」で、決定的に変わったのは何だとお考えですか。
榊:従来型のAIは、構造化された定量データはちゃんと理解していました。でも今回のChatGPTやGemini、Claudeといった生成AIは、定量データだけでなく、いわゆる非構造化の定性データ──言葉、画像、音声、動画、あるいはプログラム、法律、会計といったルール、業界の暗黙知まで理解するようになりました。
人間が理解する情報のほとんどは、実は定性情報のほうです。定量に加えて定性も理解したことで、圧倒的に人間的な思考を持ってしまった。思考の限界コストがゼロになったというのは、ここが大きいと思います。
押久保:わかりやすいアナロジーはありますか。
榊:一番見やすいのは金融、ウォール街の取り組みです。金融はインプットがほとんど数値で、アウトプットは株価や金利を予測するプログラムです。
元々トレーダーは、ロイターやニュースを見ながら、大臣の発言で株価が上がるぞ、為替が下がるぞと、慌ててパソコンを叩いていました。私自身も元はトレーダーでしたが、20年ほど経って気づいたのは、これはプログラムのほうが上手だということです。
あるニューヨークの銀行では500人いたトレーダーが、今はゼロです。代わりに50〜100人のプログラマーが入り、市場の変動を取り込んで、いくらで売り買いするかを決め、取引の実行まで自動化している。未来を予測して自動で最適化することが、すでに行われているわけです。
押久保:なぜトレーダーが最初に置き換わったのでしょう。
榊:奥深い理由があって、そこにものすごくお金がかかっていたからです。自分の思考が代替されるかどうかは、思考のタイプにはあまり依存しません。その思考にどれだけのコストがかかっているか、です。
ものすごくお金がかかっていて、たくさんの人が働いている思考は、かなり代替されてしまう。逆に、一番代替されにくい仕事は考古学者だと言われています。お金があまりかかっておらず、人数も少ないからです。一方で、窓拭きのようなフィジカルなアクションは、生成AIには代替できません。
