人もAIも閲覧しやすいコンテキストの整備を Notionが示すAI活用に必要な職場環境
SlackやGoogle ドライブなどと連携し、議事録、タスク、スケジュールなどを管理できるNotion。昨今はAIエージェント機能を強化しており、Notion内に蓄積されたコンテキストを活用して自律的に動くカスタムエージェント機能も追加された。2020年頃に約100万人だったNotionのユーザー数は、2024年には1億人規模に。当初は学生などによる個人の活用が目立っていたが、近年は企業に採用されるケースも少なくない。
そんなNotionを日本で展開するNotion Labs Japanの平田旭氏がまず着目したのは、社内のナレッジ管理や意思決定のあり方だ。同社がAI活用に向けて必要だと考える職場環境を紹介した。
まず「特定のLLMに依存しないこと」。AI戦国時代ともいえる今、毎週のように新たなAI機能の追加やモデルのアップデートが行われている。しかし、すべての情報を完璧に追い、投資をつづけるのは現実的ではない。これは多くの企業が直面している課題だろう。このような背景からNotionでは、裏側でClaudeやGemini、ChatGPTなど複数ベンダーの最新モデルが常時利用できる構成を維持し、特定のLLMベンダーへのロックインを避けているという。
次に挙げられたのが「人とAIが協働できる場の整備」だ。議事録や1on1の履歴など、人が必要とする情報とAIが求める背景情報は重なる部分がある。AIと協働するうえでは、必要な情報に人だけでなく、AIも素早くたどり着ける環境を構築しなければならない。
そして最後が「社内ナレッジに関するデータの一元化」である。具体的には、プロジェクト情報やドキュメントなどを複数のSaaSツールで保有するのではなく、1ヵ所に集約するということだ。これにより「この議事録はこのプロジェクトに紐づく」といった構造的な検索が人もAIも可能になる。
ここでいうデータとして欠かせないのが、今多くの企業がAI活用において整備を急いでいる“コンテキスト”だ。平田氏はコンテキストを次の3層に分類分けしている。
- 議事録やタスク管理・先輩社員からのアドバイスなど、現場レベルの「業務コンテキスト」
- 事業部のKPI・予算・意思決定履歴をはじめとする、事業部レベルの「組織コンテキスト」
- 事業の方向性や販売戦略といった経営レベルの「戦略コンテキスト」
AIエージェントを活用しているといっても、多くの場合は各コンテキストレイヤー内にとどまるのではないだろうか。しかし平田氏が理想として掲げるのは、AIエージェントがコンテキストレイヤーをまたいで情報を収集し、リスク管理やアラート発信を行い、外部情報も踏まえて経営のスピードを上げる一連の流れ。その実現には、3層のコンテキストをAIエージェントが取得しやすく、かつ人も閲覧しやすい状態にしなければならないのだ。
それによってAIエージェントがより自律的にタスクを完了できるようになると、週次のレポーティングが日次となり、人間が意思決定やレビューに集中して作業スピードを上げることができる。こうした状態をNotionでは「コンテキスト経営」と呼ぶのだという。結果的に、「一人の人間のケイパビリティが大きく広がる」と平田氏。従来の縦割りの組織体制から、部門の垣根を超えられる人材が活躍するのではないかと独自の見解を述べた。
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「今後はデータのリアルタイム性が一層重要に」 Shopifyが共有した新潮流
Notionとともに登壇したのが、カナダ発のECプラットフォームであるShopifyだ。独自性のあるECサイト構築に加えて、店舗データとの連携や海外販売、データ分析への対応といった柔軟性の高さに強みを持つ。同社の成長も著しく、2025年は売上が前年比30%成長の1.8兆円に、同プラットフォーム上のGMV(流通取引総額)は58兆円に拡大した。
また、Shopifyが組織全体でAIを徹底的に活用している点も注目すべきだろう。同社の創業者であるトビアス・リュトケ氏は、1年以上前に「AIを“反射的に”使うこと」を全社に求めた。現在では、AIツールの社内活用がグローバルに浸透している。自由な試行錯誤と積極的な社内での知見共有を促すことで、マーチャントへの価値提供につなげているという。
有効にAIを活用するための社内環境を語ったNotionに対して、Shopifyは企業の外側──顧客接点と購買体験に焦点を当てた。特に外せないのが、新潮流である「エージェンティックコマース」だ。
北米ではすでに、対話型AIに「こんな服が欲しい」と入力するだけで商品検索から決済までをAIが代行する仕組みが実用化され始めている。五十嵐氏によれば、ShopifyのAI経由での決済機能は日本国内では提供開始前であるものの、日本企業が北米の消費者へAIを通じて商品を販売することは技術的に可能だという。
エージェンティックコマースのメリットは、AIで探索から購入までの作業が完了する利便性だけではない。Shopifyの調査では、AI経由の注文数は2026年第1四半期に前年同期比で約13倍に増加。オーガニック検索(自然検索)と比較して平均注文額は14%高く、コンバージョン率も約50%高いなど、数字でも結果が出ている。同氏は「時代はもうここまできている」と、AIエージェントの進化のすさまじさを強調した。
一方で、AIが商品を探してくるだけでは購入にまでは至らない。注文から配送、返品に対応するには、販売側の在庫・物流データやシステムと連携する必要がある。そこでShopifyがGoogleと共同開発したのが「Universal Commerce Protocol(UCP)」と呼ばれる標準規格だ。これにより、各サービスやプラットフォーム、システム、AIエージェントを相互連携できるようになる。
「商品を販売する側は、属性や在庫、価格などの情報をリアルタイムに提供できなければ、今後AIが自社商品を探しにきてくれなくなります。UCPがあることで、商取引の裏側のプロセスをシームレスにつなぐことが可能です。結果的に、今後はデータのリアルタイム性が一層求められるようになるでしょう」(五十嵐氏)
こうした中、Shopifyでは2025年に研究開発分野で2300億円以上の投資をし、AI機能を積極的に追加しつづけている。「AIで使える機能が増えたことで、小規模事業者でも勝てる時代に突入している」と五十嵐氏は昨今の傾向を解説した。しかし、見方を変えれば海外の企業も同じようにAIという武器を手にしているということ。エージェンティックコマースで日本市場に売り込んでくるのは想像に難くない。
「たとえば、中国や韓国のブランドがSNSのようにエージェンティックコマースを駆使し、日本の消費者に訴求することも考えられます。戦い方が変わりつつあるのです」(五十嵐氏)
会場を沸かせたAIエージェント マーケも営業もこなす世界がすぐそこに
ShopifyがAIによる購買体験の変化を語った一方で、コンタクトセンター(以下、CC)のアップデートを共有したのがChannel Corporationだ。人手不足の影響を大きく受ける中、特にCCではAIエージェント活用の可能性が問われている。そうした背景もあってか、同社が発表したCC向けAIエージェント機能は会場で注目を集めた。
ECサイトなどに設置したチャット窓口から顧客対応ができる「チャネルトーク」を展開している同社。自然言語で顧客と会話するAIエージェント「ALF」の開発にも力を入れてきた。ALFの適用範囲は、チャットだけでなく電話にも拡大しているという。
「日本の問い合わせの約半分は、いまだに電話で発生している」
そう語るのはCEOの崔在鎔氏だ。この状況に対応するために、同社では電話のモニタリング・録音・AI要約をワンストップで提供する「Meet」を2年前にリリースした。そして2025年、オペレーターの代わりにAIエージェントが対応する電話向けの「ボイスALF(β版)」を公開している。
たとえば、顧客が購入した商品を返品したい場合、一般的なAI音声対応では「マイページからキャンセルボタンを押してください」と案内するまでにとどまる。顧客は1度電話を切った後に、案内に従って自らキャンセル操作をしなければならない。
それに対してボイスALFは、着信番号から顧客を自動特定し「購入された商品のうち、何をキャンセルしたいですか?」などと音声で質問する。顧客がキャンセルしたい商品を伝えると、社内システムの注文履歴を参照した上でキャンセル手続きまで自律的に完結させることが可能だ。すでにボイスALFの問い合わせ解決率は80%を超えているという。
しかし、「コミュニケーション課題の解決はスタート地点。本当のカスタマードリブンにはデータ分析が不可欠」と崔氏。そこで、新たなAIエージェント「AI CoS(コス)」を紹介した。
自然言語で、たとえば「直近5年間の問い合わせ数を教えて」と入力すると、AI CoSがリアルタイムでSQLを生成してグラフを描く。チャネルトークのアプリストアを通じてアプリを追加すれば、チャネルトーク内に蓄積されたVOCに加えて、GoogleのBigQuery、Microsoft Excel、CSVといった自社データも連携できる。「5年間の売上を教えて」と入力すると、VOCデータだけでなく、売上データとのクロス分析も可能だ。
このように、CCで収集するVOCだけでなくさまざまなデータを分析できるAI CoSだが、本来の強みはそこではないという。会場で行われたリアルタイム電話調査のデモが印象的だった。
崔氏が「今回のカンファレンスの評価を知りたい」などと入力すると、AI CoSがアンケート内容を自ら設計する。さらに、当日の参加者リストを確認した上で電話番号を洗い出し、一斉発信から回答収集・結果の即時要約までを一気通貫で実行したのだ。会場中で携帯が鳴り響き、参加者が音声アンケートに答えると、AIが集計した調査結果がリアルタイムでスクリーンに映し出された。
「データの取得・分析だけでなく、マーケティングやセールスまで行う。これが、当社がAIで描くカスタマードリブンの未来です」(崔氏)
デモが行われた電話調査だけではなく、マーケティングもセールスも担うAI CoSの機能は、7月末のリリースが予定されている。現在、オープンベータ版として、無料プランを含む全プランで追加費用なく利用が可能だ。
AI CoSのPoCに参加した企業では、6ヵ所以上に散在したデータを一元化することで、分析・レポート作成が従来の6日から5分に短縮された事例もある。分析結果に基づいてメッセージ配信を行ったところ、クリック率は通常の4倍、さらに対象商品の日次売上は15倍に伸びたという。
なお、AI CoSは同社のAIビジネスOS「チャネルワークス」の一部として提供される。顧客対応から社内のやり取り、データ分析までを1つの画面でまとめて動かせる“業務の土台”の役割を担う。
データの取得から分析、顧客へのアクションまでをAIに委ねることで、人は戦略的な意思決定に集中できる。そんな未来がすぐそこまで来ている。

