AIスタートアップの燈(あかり)は2026年6月18日、フィジカルAIに関するプレスセミナーを開き、事業戦略を説明した。同社は2026年3月に三菱電機とフィジカルAIの協業に関する戦略を発表しており、今回はその本格参入の狙いと、自社の強みを改めて示した。登壇した石本氏は「燈の強みは、現場ノウハウと融合したフィジカルAIの開発にある」と述べ、現場で蓄積した知見と独自のシミュレーション基盤「Melchior(メルキオール)」を両輪に据える方針を語った。
フィジカルAIは、画像認識や空間把握などのAIを実空間で動くロボットや設備の制御に結び付け、現場の作業をAIが代替・支援する技術領域を指す。石本氏は、工場や建設現場の全体最適化に向けたフィジカルAIの開発・実証に取り組む一方で、「現場ノウハウと融合した開発こそ強みだ」と強調した。
燈は創業5年で、建設業からスタートし、製造業を含むものづくり産業全体の課題解決に取り組んできた。石本氏は、その理由を大きく2つ挙げる。1つは「現場力」、もう1つが独自のシミュレーション基盤Melchiorだという。
現場力の裏付けとして、石本氏は複数の事例を紹介した。大東建託との取り組みでは、画像認識AIで現場の検査写真を自動分類した。検査項目が1,000を超え、約110万枚の現場画像データを抱えるなかで、工程内検査写真のAI自動分類システムを構築し、90%以上の高精度な自動分類を実現、写真分類に関わる作業時間を50%削減したという。このほか、走行しながら道路の不具合を画像認識するAIモデルの開発や、戸田建設との理想経路の干渉チェックをシミュレーションで最適化する取り組みを挙げた。
こうしたAIモジュールは、1つあたり半年から1年をかけて組み上げると石本氏は説明する。「一度AIを導入して終わりではなく、現場とのコミュニケーションを重ね、真に解決すべき課題を擦り合わせ、現場データでチューニングを繰り返す」とし、現場に深く入り込む過程で熟練者の暗黙知をモジュールに埋め込んでいくと語った。
もう1つの柱のMelchiorについて石本氏は「現実空間を高精度にデジタル化するシミュレーション基盤」と位置付ける。点群データや3Dの設計モデルデータ、図面データを燈のAIモジュールと組み合わせ、幅広いソリューションを構築できるという。既存のシミュレーション基盤では「課題解決に最適ではないと判断し、1から自社開発した」と石本氏は経緯を述べた。
点群を高速に描画する独自機能はオープンソースのソフトと比べて数倍から数十倍の速度を出せるといい、AIエージェントと連携してMelchiorを自動実行する機能も開発したとした。なお「Melchior」の名称は、社内エンジニアがアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するスーパーコンピューターから取ったという。
Melchiorの強みとして石本氏は4点を挙げた。仮想の建設現場や工場でロボットの動きを学習でき、本物の現場に入る前に危険なパターンを試せること。経路や干渉を自動で検証できること。スマートフォンやハンディスキャナで撮影した3Dモデルを読み込み、現場を立体的に再現できること。そして、シミュレーション上で検証した動きを実機ロボットへ一気通貫で流し込めることである。当日は、Melchiorを使ってシミュレーションから実機ロボットまで動かすデモンストレーションも実施した。デモでは画像認識や空間把握のモジュールを複合させ、シミュレーション上の動きを実機ロボットへ一気通貫で再現してみせた。
石本氏は、この基盤によって「ロボットのメーカーを問わず、単一の基盤から指令を出して複数のロボットを動かせる」と説明する。従来はメーカーごとに制御方式が異なり、別メーカーへの乗り換えや複数ロボットの組み合わせが難しかったとし、「お客さまが今持っている既存の設備を入れ替えず、そのまま生かせる点がポイント」と語った。
ロボット制御の基盤として広く使われるROS(Robot Operating System)との違いについても石本氏は触れた。「ROSは汎用的なモジュールをつないでいく基盤で、現場へ導入する際の品質や安全はユーザー側の負担が大きい。Melchiorは現場の課題解決に特化した機能を日々開発しており、現場実装のコストを抑えられる」とした。
燈が目指すのは、現場実装力とハードの汎用性を両立する立ち位置だという。石本氏は「国内の産業ロボットメーカーは現場力があるが特定のハードウェアに依存し汎用性が限られる。海外の基盤モデル開発企業やAI企業は汎用性が高いが、日本の現場に入り込んで実装する力はまだ弱い。どのプレイヤーも解いていないポジションを狙う」と語った。注力する領域としては、ものづくり産業のなかでも組み立て・加工を担うディスクリート系の工場や製造業、そして建設現場を挙げ、建設業では4足歩行型ロボットによる現場巡回から取り組みを進めているとした。
石本氏は、燈が目指す未来として2点を示した。デジタルツインを通じて現場の設備やロボットのデータを収集・蓄積・学習し、現場全体の最適化を実現すること。もう1つは、現場に浸透するフィジカルAIの実現である。「日本では現場の高齢化が進み、熟練者が持つ暗黙知の引き継ぎ手がいなくなっている。日本の生産力を次世代に引き継ぎ、ものづくりの基盤を守り抜きたい」と述べ、「日本を照らす明かりになる」とフィジカルAIの社会実装を進める姿勢を語った。
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京部康男(AIdiver編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineとAIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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