何をやるか(1)──旗を振る前に「測る」
とはいえ、いきなり「全員でやろう」と旗を振っても空回りします。最初の一手は、旗ではなく測ることです。
経営者は、売上や利益ならすぐ数字で答えます。ところが、「自社のAI活用率は?」と尋ねられて即答できる人は、ほとんどいません。そこでまず、あなたがAI活用率を測ります。日常業務で定期的にAIを使っている人の割合がわかれば、自社が今どのフェーズにいるかがわかります。そして打ち手は、フェーズによって大きく変わります。
厄介な点は、個人の体感と組織の実態が大きくズレていることです。「当社はAIを比較的使えているほうだ」という感覚ほど当てにならず、できているつもりの人ほど、実際に測ると使えていません。
健康診断と同じです。「なんとなく不調」では、人は生活を変えませんよね。「数値が基準を超えています」と告げられて初めて動きます。組織のAI活用も同じで、測って数値にして、初めて次の一手が決まります。
測り方は大がかりでなくて構いません。手近なものを組み合わせれば、おおよそのフェーズはつかめます。
- 管理画面の利用ログ。アカウント発行数ではなく、直近1ヶ月に実際に使った人数を見る
- 匿名アンケート。「週に何回、どの業務で使ったか」を数問だけ。匿名にすると本音が出ます
- 成果物からの逆算。議事録や資料に、AIを使った痕跡があるかを実物で確かめる
- 現場を見て回る。これが一番確実です。隣で15分、実際の作業を見せてもらう
ログとアンケートで全体像を、成果物と現場観察で実態をつかみます。この2つを突き合わせると、体感と実態のズレがくっきり見えてきます。
隣の会社が50%向けの施策をやっていても、自社のAI活用率20%なら真似ても意味はありません。段階を見誤ると、正しい努力が全部空回りします。
何をやるか(2)──「小さく、深く」刺すユースケースを創出する
多くの組織がつまずくのは「拡大」(20〜50%)の段階です。ここでやりがちなのが、全社に広く浅くAIツールを配ること。広く浅くやるとすべてが中途半端になり、どこにも成功体験が残りません。しかも、AI導入で最も代償が大きいのが1回目の失敗です。
「使ってみたけどダメだった」という体験が最初に残ると、抵抗感が根づいて、二度と振り向いてもらえなくなります。ですから、最初は小さく、確実に当てにいきます。
やることはシンプルで、部署ごとに、一番効果的なユースケースを1つだけ深く刺すことです。営業なら、トッププレイヤーの商談準備の型をAIに載せて、誰でも同じ準備ができるようにする。マーケターなら、毎回作る資料の下書きをAIが一発で出す形にする。全社共通なら、議事録の作成と要約を丸ごと任せてしまう。
コツは、あれもこれもではなく、その部署が毎週必ずやる作業を一つだけ選ぶことです。毎週やる作業だから効果が積み上がり、本人が手放せなくなります。「深く刺す」とは一度試してもらうことではなく、その業務のやり方がAIなしには戻れなくなるまで入り込むことです。
1つのユースケースが深く刺さると、「これもAIでできないか」と現場から次のユースケースが生まれます。広げるのはあなたではなく、成功体験を持った当事者たちです。「小さく始める」は遠慮して縮こまることではなく、一点に絞って確実に成功体験を創出し、そこを起点に広げていく、1番速い戦略なのです。
