ベンダーロックインは「自律性の喪失」──鉄砲の内製化に学ぶデジタル主権
講演の締めくくりのテーマは「戦略的自律性(デジタル主権)」だった。「デジタル主権」や「ソブリン」という言葉は、防衛やセキュリティの話として語られがちだ。だが本質は、「自社の経営の主導権を、自社でどう握り続けるか」という経営戦略の問題だ、と和泉氏は位置付ける。その上で、こう警告した。
「AIやデータの基盤を、特定のプラットフォーマーやサービサーに丸ごと依存してしまう。これは、AI時代においては自社ビジネスの『製品・サービスの戦略や価格の決定』を他社に左右されている状態を意味します。相手の規約変更や値上げ、あるいは地政学的なリスク一つで、自社の存続があっという間に揺らいでしまいかねません」
ここでも、引き合いに出されたのは織田信長だ。信長は鉄砲をただ買うだけでなく、堺や国友の鍛冶職人に技術を研究させ、国内で大量に生産できる体制まで整えた。武器の導入量を他国や輸入に依存することなく主導権を保てたことが、天下統一を支えた、という整理である。では、現代の企業にとっての「鉄砲の内製化」とは何か。和泉氏は、自社ビジネスを支えるシステムをオープンな技術(オープンソース等)の構成として可視化し、AIとデータに関する意思決定権を自社の手元に残しておくことだと述べた。
和泉氏は、特定の企業に頼りきってしまう基盤(典型的にはベンダーロックインの状態)と、自社で自律的な選択権を維持している基盤とを対比させ、両者を分ける3つのポイントを挙げた。コスト決定権として、自社の計画に基づいた管理が可能か。データを、必要なときに別の場所へ移せるか。そして、自社の意思で最適なAIモデルを選べるか。ここでも「武田信玄も鉄砲は持っていた」という教訓を重ね、データを「持つ」時代から、「勝つ仕組み」として創る時代への転換を説いた。
「勝つ仕組み」への転換のための3つの段階
講演の結論として、和泉氏は企業が進むべき道筋として、3つの段階を示した。
(1)多くの企業がいる「種子島伝来に相当するAIそのものを調査・分析する」段階
(2)「AIを導入して既存のビジネス・業務を効率化する」段階
(3)「AIを前提にプロセスと組織を作り直す」(織田鉄砲隊の三段撃ち)段階
すなわち、最終段階として、デジタル主権をオープンな基盤で確立させ、自律的な経営モデルを維持する段階へと進むことが重要となる。
最後に和泉氏は以下のように語り、講演を締めくくった。
「AIという『新たな武器』が登場したこのデジタル戦国時代で、これまでの古い戦い方に固執するのか。それとも、未来を見据えて新しい戦い方を自らデザインするのか。その決断が、これからの企業の命運を分けることになるでしょう」
※本記事は、SUSE ソフトウェアソリューションズ ジャパンが2026年7月7日に主催した「SUSE Summit Tokyo 2026」の講演内容を基に作成しています。
