AIが爆発的に普及し、業務の効率化や自動化が急速に進む現代。組織経営やマネジメントのあり方にも変革が求められています。そうした中、運用型広告を中心に事業を展開するアナグラム株式会社の創業者であり、現在は同社の会長を務める阿部圭司氏は、著書『経営メモ』の中で「意図的に超属人的な組織をつくってきた」と明かしています。効率化や標準化が叫ばれるデジタル業界で、なぜあえて属人化を突き詰めたのか。そして、AIが進化しても代替されないマネジメントの本質とはどこにあるのか。阿部氏に同社独自の取り組みや、AI時代の人間経営の醍醐味をうかがいました。
挙手ですべてを決めて16期連続増収増益
──阿部さんの著書『経営メモ 16年の起業家人生で得た知見』を興味深く拝読しました。著書の中で「経営者として意図的に超属人的な組織を作ってきた」と書かれていましたが、その理由をうかがえますか?
「分業」というシステムに対する疑問がきっかけでした。20世紀、社会を豊かにしたものの1つが分業です。確かに分業によって経営は効率化できますし、従業員のラーニングコストも大幅に抑えられます。
しかし、食うに困る状況が起こりにくくなった現代において「どこまで効率化を追求すべきか」ということを考え始めたんです。実際、分業の中で苦しんでいる人もいました。Web広告会社のアナグラムを起業するにあたり、今のシステムに違和感を持つ人たちから矢印を向けてもらえるような組織形態を目指しました。
分業自体は素晴らしい仕組みです。リスペクトを払いつつも、そうではない組織のあり方を模索した結果、超属人的な組織に行き着きました。
──どのようにして属人的な組織を運営されているのでしょうか。
たとえばアナグラムでは「挙手制」が一種のアイデンティティになっています。「この案件を担当したい人」と希望者を社内で募り、手を挙げた人にしか仕事を渡しません。案件だけでなく、採用や配置もすべて挙手制なんです。手を挙げた人しか採用されませんし、手を挙げた人のチームにしかメンバーは配属されません。すべてが挙手によって決まる点は、ほかの企業にない特徴です。
──手が挙がらなかった場合はどうなるのですか?
案件であればお断りします。周囲から「売上に影響はないのか」と心配されますが、アナグラムは創業から16期連続増収増益で、赤字は一度もありません。
なぜ挙手制がうまく機能するかというと、仕組みで補完しているからです。挙手制だけでは維持が難しいため、そこに評価制度を組み合わせています。役職ごとに半期の成果目標が設定されており、目標を達成しなければ給料は当然上がりません。皆が「昨期よりも頑張ろう」「成長するために去年より多くの仕事をこなそう」と思っているため、誰からも手が挙がらなかったことは一度もないです。
──著書にもあった「人間の習性を理解した制度を作る」がまさにそれですね。
ベンチャー企業の門を叩く人は、皆「成長したい」という欲求を持っているはずなんです。面接の段階でも意欲を確認していますし、欲求と意欲を織り込んだ挙手制と評価制度がうまくはまったのだと思います。
ただ、手を挙げなかったからといって評価が露骨に下がるわけではありません。案件自体はおかげさまで次々に舞い込んでくるため、そこから「選ばせていただいている」という感覚です。案件が少ない状態で挙手制を敷いても、恐らくうまくいかないでしょう。
離職率0%を喜べなかった理由
──今うかがったような仕組みを完成させるまでに、失敗や試行錯誤はありましたか?
山ほどあります。ほとんどが失敗ですよ。挙手制を導入する直前に入社したメンバーからは混乱が生じましたし、評価制度のチューニングにも試行錯誤しました。
最初は100%定量の評価制度を作ったんです。ところが「こんなに成果を出したのに、年間でこれだけしか給料が上がらないのか」とメンバーに不満を抱かせてしまって。ベンチャー企業なのに夢がないと思ったようです。
ただ、この評価制度を設けた2017年は離職率が0%でした。一般的に見れば離職率0%は喜ばしいことかもしれませんが、僕は逆に不穏で仕方がなかったんです。不満を感じているのに誰も辞めない状態を健全とは思えず「定量評価をやめます」と宣言しました。
──現場の反応はいかがでしたか?
当然「なんで?」と言われました(笑)。「辞める人がいないのは良いことじゃないか」と。合理的に言えばそうなのですが、人員の流れは血液のようなものだという感覚が僕の中にあり、誰も辞めない組織は淀んでいると感じてしまったんです。ベンチャー企業は、人が循環することによって次のフェーズへ進める節があります。内部の人の成熟によって伸びることもあれば、外部から入ってきた人の推進力で伸びることもあるからです。
このような試行錯誤を経て、定量的な部分を半分残しつつ、ファジーな定性の部分も半分ある評価制度を新しく作り直しました。
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渡辺 佳奈(編集部)(ワタナベ カナ)
1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2013年に卒業後、翔泳社に新卒として入社。約5年間、Webメディアの広告営業に従事したのち退職。故郷である神戸に戻り、コーヒーショップで働く傍らライターとして活動。2021年に翔泳社へ再入社し、MarkeZine編集部に所属。
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