前編はこちら
AI戦略の本丸は“ものづくり” パナソニック×AIで「かなり面白いことができる」
森:これまではパナソニック コネクトが中心でしたが、グループCAIOに就任されて見えてきた新たなチャレンジはありますか。
榊原:当社グループは、巨大なサイロ企業の集まりといえます。AI活用の前に、学習させるためのデータを集める基盤も、AIガバナンスの基準もバラバラです。それらの整備から始めなければなりません。
過去に、AIで新たなサービスを始めようとして結果的にグループを去った人もいますが、彼らは“出島”で進めようとしていました。伝統的な慣習にとらわれていると時間がかかるため、スピードを重視して海外に拠点を置いて始めてみるのですが、それだと企業は動かない。ビジネスにならないのです。茨の道とはいえ、事業会社を巻き込むしかありません。やはり、本丸はものづくりだからです。
博報堂DYホールディングス CAIO 森正弥氏(以下、森):将来的には、フィジカルAIが主戦場になると思われますか。
パナソニックグループ CAIO/パナソニック コネクト CTO 榊原彰氏(以下、榊原):そうです。現場力を組み合わせて、日本品質をフィジカルAIで実現することが日本の勝ち筋です。パナソニックグループの技術とAIの掛け合わせで、かなり面白いことができるはず。ハードとソフトとAIの接点が、日本の製造業の力を発揮できるところだと思います。
一方で、フロンティアAIを提供している企業が「FDEを派遣してモデルを賢くする」とよくいうのですが、モデルが使えるからといって当社グループがお金を払ってデータを渡してしまって良いのかと懸念しています。我々にとっては、“学習のソブリンティ”が非常に重要だからです。
森:本来はデータを社内に残して循環させて、自社プロダクトのレベルアップや先端研究に活用していかなければならないということですね。
榊原:すでにパナソニック コネクトでは、さまざまな研究を進めています。
ものを扱うとき、力覚や触覚がかなり重要です。同じ「掴む」でも力強く掴んでしまうと、ものを器用に動かすことができません。そのため、ドアを開けるときは余力を残すといった工夫が必要となります。しかし、ロボットを動かすためのVLA(Vision-Language-Action)モデルに、そこまで学習させることは難しいのです。人の動きや判断をロボットに模倣させるイミテーションラーニングにも同じことがいえます。ハプティックフィードバックの活用や、VLAと組み合わせられるスキルセットとのハイブリッド型で解決できないか、方法を模索しています。
たとえば、穴にジャックをはめ込む嵌合という作業では、現場の人はカチッという音ではまったかどうかを判断しています。つまり、視覚や触覚に加えて、聴覚も必要です。マルチモデルでデータをシンクロさせて、AIにインプットしなければならない。試してはモデルを増やすことの繰り返しです。
森:大変ですが、楽しそうでもありますね。
榊原:実際に楽しいですよ。工場に行くと、さまざまな作業があって「あ、それは考えていなかった!」という発見が多くあります(笑)。
