各社がAI前提の企業経営へと転換しようとする中、それを率いるCxOたちは何を考えているのか。博報堂DYホールディングスのCAIO 森正弥氏が、各業界のトップランナーに取材する対談シリーズ。今回のゲストは、2026年1月に三菱ケミカル 執行役員 チーフデジタルオフィサー(CDO)に就任した浦本直彦氏だ。業界を超えた連携の必要性、そしてAI時代のリーダー像までを語り合った(後編)。
前編はこちら
国内で競争をしている場合ではない 同一性が強みに
博報堂DYホールディングス CAIO 森正弥氏(以下、森):前編で暗黙知の話を伺いましたが、AIスタートアップであるストックマークの「日本企業の暗黙知/社内データ AI-Ready化プロジェクト」に参画されていますよね。
三菱ケミカル CDO 浦本直彦氏(以下、浦本):はい。知識は人にも機械にもわかる形で表現しておきたいという想いがあります。これは、私が古い世代のAI研究者だからかもしれませんね(笑)。
AIが学習した知識を無数の数値パラメーターの中に溶け込ませてしまうと、なぜその答えを出したのか人間には読み解けない。いわばブラックボックスです。加えて化学産業では、現場の知識が数十年にわたって価値を持ちます。だからこそ、それらを知識そのものとして管理したいのです。マークダウン形式でもグラフでも構いませんが、生のデータを構造化し、人と機械の双方が理解できる表現形式で将来に受け継いでいくことが大事だと思っています。ストックマーク社とは、ある工場に蓄積された報告書や図面のデータをどこまで構造化できるか、そしてどう活用できるかを試しているところです。
一方で、今回のプロジェクトには16社が参加していますが、それぞれが独立した領域で個別に取り組みを進めています。その中で、今後は横のつながりも必要ではないかと感じています。
森:各社が形式知化を試みていると分かれば、連携する価値が生まれますね。話もスムーズです。
浦本:そうなのです。もちろん当社のレシピや製造ノウハウはいわば秘伝のタレであり、社外には共有できません。ただ、競争領域以外で同じようなことに挑戦しているなら、一緒に作っていくほうがいい。歴史的に、化学領域では各社が類似製品を扱うため連携しづらいとされてきました。しかし、今はそんなことをいっている場合ではありません。たとえば、旭化成・三井化学と当社の3社で、西日本のエチレン設備の統合を検討しています。会社そのものがお互いに近づいてきている状況です。
中国が安価な化学製品を生産して世界中で販売している中、日本の企業同士で競争するよりは業界を越えてでも連携したほうが勝ち筋はあります。今回のプロジェクトの先に、そうしたつながりが生まれることに期待しています。
森:その話につながるのですが、実は11月にAI時代の経営戦略を示した書籍『ハードチョイス AI時代を生き抜く経営者・リーダーのための59の問い』(文藝春秋)を出版する予定です。本書内では、経営戦略の歴史を踏まえて、AI時代に必要な3つのステップとして「better」「different」「same」を挙げています。
新たに市場が生まれると、まずは品質や量、満足度といった定量的な軸で競う「better」の戦いが始まります。しかし、需要が満たされるとコスト勝負に陥る。そこで、量では説明できない違いを打ち出す「different」へと移っていくのです。ただし、大量に商品が供給されるともはや競争の話ではなくなります。
そこで次に必要となるのが「same」。業界を問わず、ときには顧客までも同じ課題を抱えています。同じ課題を解決するために、新しいエコシステムや協力体制を構築していくわけです。従来の競争領域・協調領域という切り分けではなく、まったく新しいテーマのためにともに取り組む。各社のAI-Ready化が進めば、それがやりやすくなるのではないかと考えています。
浦本:生成AIの特性としても、ある意味、均一化していくことは間違いないですよね。
森:だからこそ、その「同じである」ことを利用して、今までと違うことに皆で挑むことが重要なのかもしれません。
浦本:そうですね。秘伝のタレは守りながら、それ以外の同じ部分をうまく見つけ、お互いの力を借りてより良い価値をデザインしていける世界を作れると理想的です。
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藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)
1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。
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