昨今の重大AIインシデントは必ずしも悪ではない 「DeepMind」出身者が鳴らす未来への警鐘
Recursive 共同創業者 兼 代表取締役 CEO ティアゴ・ラマル氏インタビュー
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前に進みたいなら間違いを許容せよ
ラマル氏の重視する「失敗」が、日本企業には足りていないのかもしれない。保守的であることは悪ではないが、新技術に失敗はつきもの。特にAIは自律性が上がっていくため、ときに予想だにしない行動をする。最初から最適解を見つけることは不可能だろう。
「間違いを許容しない性格が、日本企業のイノベーションを遅らせています。私は、最初から正解を手にする難しさを肌で感じてきました。完璧でなくても試し続けなければ。ソフトウェア業界でいう『アジャイルプロセス』の考え方こそ、AI時代に必要です。結果的に、非常に強力なAIが新たに登場した時にすぐに追いつける土台もできあがります」
Recursiveは、中小から大手まで多様な日本企業とプロジェクトを進行してきた。住友林業とは、ハイブリッド物理AIを活用し地下水位の高精度予測を実現。教育同人社とは、小学生向け計算ドリルの手書き回答の自動正誤判定を可能にしている。そのほかにも、サントリーやトラストバンク、KDDIなどに対しても、AIソリューションを開発してきた。これらのプロジェクトでも、当初は開発プロセスに多くの課題があったという。その壁を乗り越える起点となったのが、BSA(Business Solution Architect)とFDE(Forward Deployed Engineer)からなるFDT(Foward Deployed Team)だ。Recursiveはこの体制を軸に、アジャイルプロセスへの移行を実践してきた。
まず、BSAがビジネス課題を特定し、実現可能なAIソリューションを設計する。その課題と設計を踏まえ、FDEがBSAと一体となって動きながら具体的な実装設計を担い、ビジネスと技術の橋渡しを絶え間なく行う。それによって、企業と協働して構想段階のソリューションを実行可能な仕組みへと創り上げていくのだ。
FDEの存在は、日本でも急速に注目を集めている。ビジネスの課題を聞き、それを解決するためのシステム仕様を考え、形にする──ビジネスと技術の両方を理解することが求められるため、ハードルは高い。しかし、ラマル氏は「既存のエンジニアチームをトレーニングして、FDTにすることは可能」と話す。
「そのためには、優れたFDEの定義やトレーニングの方法がわかっている人間が必要となります。当社がアジャイルプロセスを重視する中で、力を入れてきた領域です。実際に、専門学校や大学卒業後の早いタイミングで入社したエンジニアをトレーニングしています。現在の市場で見つけにくいFDEの要素を、一から教えているのです」
こうしたFDEに限らず、AI企業に求められる要素は今後も拡大していくだろう。変化のスピードがますます速まる中、ラマル氏は次の3年をどのように見ているのだろうか。最後に聞いた。
「あらゆる技術がそうであるように、より良くなればなるほど、より安くなります。安くなれば需要が増加し、私たちは新たな用途を見出します。たとえば、局所的な社会および環境問題は膨大にありますが、大企業が解決するには規模が小さすぎるものも多いです。しかし、AIがさらに多様なソフトウェアの構築を可能にすれば、ロングテールのニーズにも対応できます。そうなれば、日本市場、そして世界で前向きなインパクトをを生み出すことができるでしょう」
その未来へ近づくためにも、被害が小さい今のうちに失敗を重ねておく。ラマル氏の言葉は、AIのリスクを前に足踏みする日本企業への後押しとなるはずだ。
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藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)
1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。
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