三菱電機は2026年1月、産業DXなどを展開するAIスタートアップ企業の燈に50億円を出資した。その背景にはフィジカルAIの開発強化がある。同年3月17日、2社は共同で記者向け説明会を実施し、詳細を語った。

冒頭で三菱電機 執行役社長の漆間啓氏は「社長就任以来、循環型デジタルエンジニアリング企業を目指してきた。そのためにはデータが重要だ」と話した。その言葉どおり、同社は2024年5月に機器から得たデータをプールするデジタル基盤「Serendie(セレンディ)」を展開。また、2025年9月にはSerendie事業の拡大などを目的にOperational Technology (制御・運用技術)のセキュリティ技術を有する米国Nozomi Networksの買収を発表した。そして2026年1月に発表したのが、燈への大幅出資だ。
2021年に創業した燈は創業以来、建築業界や製造業界など日本のものづくり産業にフォーカスしてAI化を支援してきた。これまで黒字経営を継続している。三菱電機は同社と主にフィジカルAI領域で手を組む。
「現場の暗黙知をAI化することで、(工場などの)無人化が実現できるのではないか。2026年は間違いなくフィジカルAI元年になる。AIを通じて、トラブルの予防やダウンタイムを短縮できれば。今後、現場のフィジカルAIとそれらをオーケストレーションするフィジカルAIが常に交信しながら動く仕組みも検討できる。こうした技術が発展し、材料の発注や需要予測もフィジカルAI化すれば、すべてがフィジカルAIでコントロールできる世の中になるのではないか」(漆間氏)
一方で、フィジカルAIの実用化には次のような技術的なハードルもある。
- データのサイロ化
- 人が介在する工程を自動化する難しさ
- ロボット同士やロボットと人が干渉しないなど安全性の確保
三菱電機はこれらの課題を燈との協業により解決していく考えだ。各現場でAIを活用してきた技術者を集め、さらに部門を横断した専門組織を新たに設立した。この組織が燈と連携しながらフィジカルAIの開発に取り組む。燈の代表取締役社長 兼 CEO 野呂侑希氏は「フィジカルAIは創業以来最大のチャンス」と述べた。
「当社は100種類以上のAIモジュールを保有している。今回の協業では、AIエージェントからロボティクス、そしてシミュレーションが重要となる。現場の暗黙知をデータ化しデジタルツイン上でシミュレーションを行う。その結果を踏まえて現場へ実現する。このスピードと精度が当社の最大の強み」(野呂氏)
具体的な実現フローについて、三菱電機 専務執行役CDO 武田聡氏は「燈はデジタルツイン技術に加えて、学習したことをAIのアルゴリズムに組み込むことにも優れている。当社の知見と燈の技術をかけ合わせれば非常に早くフィジカルAIを実現できるのではないか」と話す。
現時点で、具体的な協業が始まって2ヵ月が経過しており、既に3つのPoCが進んでいる。武田氏はその中から工場内物流の事例を紹介した。製造現場のラインは単独では自動化ができるものの、ライン間をつなぐ作業の自動化は細かな調整が発生するため難易度が高いという。今回の事例では、このライン同士をつなぐ工場内の物流の自動化に取り組んだ。燈のデジタルツイン技術を用いて実際の動きや生産高の変動などをシミュレーションし現場に実装。AMR(自律走行搬送ロボット)がエレベーターや生産ラインと連携し、必要な部品などを、フロアをまたいでラインに投入できるようになっている。これにより、AMRの稼働率は5割改善しているとのことだ。
なお、こうしたフィジカルAIの事業化を目指している三菱電機だが「単に機器とソフトウェアを販売するわけではない」と漆間氏は説明する。導入前後の相談から、改善までのプロセスを含めて燈と協力しながら支援していくとした。
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