SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

AIdiver Press

日系企業がAI時代に勝てる理由は「ジョブ型雇用」に失敗したから? 新技術がもたらす人材・組織改革

経営・組織判断の迷いをなくす「ヒューマン・デジタルツイン」とは

  • Facebook
  • X
  • note

 人事・組織の変革において「やってみないとわからない」という不確実な部分は大きい。大規模な組織改編や新規事業のメンバー選定など、人の“目利き”によるところもあるのではないだろうか。しかし、生成AIの登場によって、個人の意図や性格、組織の文脈という「見えざるデータ」が可視化できるようになり始めた。このチャンスを活かせるかが、今後の判断の質を大きく分ける。先端技術の活用を推進するMQueが「生成AI×組織」をテーマに行ったイベントで、マックス・プランク人間開発研究所 矢倉大夢氏、丸紅 福永美華氏が、それぞれ未来予測と現在地を語った。

  • Facebook
  • X
  • note

個人の生の声・組織の価値観を使う時代 定性データが差を生む

 ドイツ・ベルリンの研究機関で、「機械が人間の行動、社会をどう変えるのか」をテーマに研究を行っている矢倉氏。米AI企業であるAnthropicのフェローも務める人物だ。過去に、テクノロジーによる企業の部課長育成に取り組んでいたものの、当時は技術の限界を感じていたという。

 人事・組織マネジメントにおけるAI活用は、既に長年の取り組みがある。しかし、その多くは「ピープルアナリティクス」として、過去のデータに基づいた分析にとどまっていた。このデータ自体の性質が大きなハードルとなっていたのだ。

「人事データというと、アンケートの結果や属性情報といった構造化されたデータが主です。実は非常に重要な『その人自身の意図』『組織の中での文脈』などは、そもそもデータとして取っていないのです」(矢倉氏)

マックス・プランク人間開発研究所 Centers for Humans and Machines 研究員 矢倉大夢氏
マックス・プランク人間開発研究所 Centers for Humans and Machines 研究員 矢倉大夢氏

 従来の分析で、アンケートや適性検査のスコアから「どのような人の離職率が高いか」といった傾向は分かる。一方で、背景情報がないために「離職率が高いのはなぜか」「どう対策すればいいのか」までの深掘りは難しいのが現実だ。この長年のフラストレーションを解決するきっかけを与えたのが、生成AIの登場である。

 従来のAI技術でも、たとえば画像や音声の分析は可能だった。その上で、大規模言語モデル(LLM)や対話型AIがさらに一歩踏み込んだ。矢倉氏は「個人の生の声や組織内の価値観といった非定型データにもとづいて、物事を判断できるようになってきた」と話す。

 生成AIは、言葉の裏にある意味や文脈を理解しながら、AIエージェントとしてデータを能動的に探しに行ったり、社員と会話をしながらさらに非定型データを集めたりできる。これにより、過去データが蓄積されていない組織であっても、AIエージェントが自動的にデータを収集し、その企業の状況に合わせた示唆を抽出することが可能だ。この技術的な進歩は、人事領域に次のような新しい活用法をもたらす。

組織課題と変革の可視化

経営理念が各部署の社員にどれだけ浸透し、どのように解釈されているかを「生の言葉」から把握し、変革を阻害するボトルネックを特定する

個人の成長ポテンシャルの理解

非定型データからその組織ならではの行動や言葉を理解する。過去の適性検査ではなく、その組織での行動履歴から若手の成長を予測し、再現性のある采配が可能となる。

採用・配属の超解像度化・精緻化

生成AIが非定型データを引き出し、求める人材の言語化を助ける。これにより、マッチする人材を探すことが可能。従来なら失敗のリスクを心配していた選択も後押しできる。

 とはいえ、単なるデータ分析や予測の進化で終わってしまっては、AI時代の人事戦略は本質的な変革を達成できない。矢倉氏が考えるその一歩先、つまり意思決定から不確実性を排除するのが、人間をデジタル上に再現する「Human Digital Twin(ヒューマン・デジタルツイン)」の活用だという。この壮大にも思えるアプローチが、長年解決できなかった経営判断の「どうなるかわからない」という不安を、いかにして確信に変えるのか。 矢倉氏がその可能性を示す。

次のページ
組織再編・新規事業…… AIで「どうなるかわからない」をなくせる理由

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
AIdiver Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)

 1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X
  • note
AIdiver(エーアイダイバー)
https://aidiver.jp/article/detail/267 2025/12/23 08:00

広告を読み込めませんでした

広告を読み込み中...

アクセスランキング

アクセスランキング

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング