「SLM」はゲームチェンジャーとなるか? AIのコストと実用性
岡本(EnterpriseZine編集部):小澤さんはAICX協会代表理事を務めながら、メディアからイベントまで幅広くご活躍されていますね。
小澤健祐氏(以下、小澤):2017年からずっとAIの発信をしてまいりまして、今10年目を迎えました。当時、まだ「生成AI」という言葉はなくて、チャットボットやスマートスピーカー、需要予測といったキーワードが並んでいましたね。現在はAICX協会でAIエージェントの社会実装を進めており、官民問わず幅広く活動しています。
岡本:ありがとうございます。今回は「SLM(小規模言語モデル)」についてお話をうかがいたいのですが、そもそもSLMとはなんなのでしょうか。
小澤:SLMは「LLM(大規模言語モデル)」の反対、パラメータ数の小さな言語モデルを指しています。これまで「学習量を増やせばいい」という考え方が主流でしたが、2026年以降は「いかに小さくしていくか」という、SMLの観点が注目されると思っています。
岡本:なぜ今、言語モデルを小さくすることが求められているのですか。
小澤:わかりやすく言えば、LLMは知識を持ちすぎたのです。たとえば、医療向けのAIを作ろうとしたとき、そのモデルに韓流アイドルの知識はいりませんよね。だからこそ、今後は(インターネット上の情報を網羅するLLMではなく)“特定の可能性”を深掘りするためのSLMが広がっていくことでしょう。
岡本:ガートナー社の調査でも、2027年までに企業のSLM導入率はLLMの3倍になると予測されていますね。この背景には、やはりコストの観点で課題があるのでしょうか。
小澤:まさしく、その通りです。LLMをクラウド上で利用するとき、1ユーザーあたり約3,000円の利用料が発生するため、企業内で活用の幅が広がるほどに負担は増していきます。それに対してSLMは、パソコンやスマートフォンなどのデバイス内で処理が完結します。たとえば、Android端末なら「Google AI Edge Gallery」のようなアプリを使うことで、デバイスの中にAIモデルをダウンロードし、オフラインで利用可能です。これが進展していくと、LLMに課金しつづけることがバカバカしいと感じる場面が増えてくることでしょう。
岡本:企業における実用性も高いのでしょうか。
小澤:SLMには、ファインチューニングしやすいという利点があります。たとえば、ライオン社では、過去20年分の研究開発資料を基にSLMをファインチューニングすることで、自社特化型の言語モデルを構築しています。また、日本航空(JAL)社は、Microsoft「Phi」を活用して「JAL AI Report」というアプリケーションを作っています。客室乗務員がiPad上でキーワードを入れるだけで、過去のフライトレポートを学習したAIが社内用語に対応したレポートを自動生成してくれます。もはやパソコンすら不要で、タブレット内で完結しているのです。
岡本:パラメータ数が少ないからこそ、扱いやすいということですね。
小澤:はい、計算リソースや電力も少なくて済みます。やはり、2025年に公開された「gpt-oss」の衝撃が大きかったですね。120Bと20Bというパラメータ数のモデルですが、16GB程度のメモリを積んだパソコンでタスクがこなせる。つまり、「ChatGPTをわざわざ使わなくても同じことができる」という状況に変わったのです。最近のAI開発はコンマ1秒を競うような頭打ちの状況になってきていますが、社会実装においては「低コストでいかに現場導入できるか」が求められているのです。
岡本:たしかに、最近は「エッジAI」や「オンデバイスAI」という言葉も耳にしますね。
小澤:私は、日本HP社のアドバイザーも務めていますが、同社では「ハイブリッドAI」という言い方をしています。思考が重要なタスクはクラウド、簡単な要約などはオンデバイスでという使い分けをしっかりしていく。今はまだアプリケーションが整っておらず活用が進んでいない面もありますが、今後はこの使い分けこそが重要になるでしょう。
