「無慈悲なLLM」に中途半端な専門性は一撃で淘汰
新規事業の観点では、南場氏はLLMを提供するプレーヤーたちの姿勢を「無慈悲」と表現した。「彼らはスタートアップとともにエコシステムを繁栄させようなんて全然思っていない。2桁兆円の資金をかけて競争していて、取れるものは全部取るというスタンスです」。
ファンデーションモデルの汎用適用範囲は猛スピードで広がり続けており、中途半端な専門性では「一撃を食らう」。では何が防衛線になるか。「〇〇×AI」の「〇〇」の部分、すなわちドメインの複雑性と深さだ。そのドメインのプレーヤーでなければ持てない深いドメイン知識や固有データがあれば、戦えるという。
なお、AIを使いこなす上で重要な能力は、この1年で「プロンプトエンジニアリング」から「コンテキストエンジニアリング」、そして前述の「エンバイロメントエンジニアリング」へと変遷してきたと南場氏は整理した。

コンテキストの重要性は今も変わらないが、AIエージェントが自ら情報を取りに行く時代になったことで、「どこまで見に行っていいか」「何をしていいか」の環境設計が問われるようになった。
びゅんびゅんびゅんびゅん回せない組織は、参戦資格なし
プロダクト戦略に関しても、南場氏は厳しい現実認識を示した。「今この瞬間UI/UXが優れている」という静的な優位性は、もはや無意味だという。開発スピードが上がった今、重要なのは「ベロシティ(velocity)」、いわゆるスピードだ。
競合とのギャップに気づいた瞬間に修正し、顧客の前で直してみせ、新しいモデルが出たらすぐに取り込んでプロダクト開発に活かす、まずこの回転速度そのものが問われるという。
「ベロシティをともわないプロダクトの優位性は無意味になりつつあります。ベロシティをともなう形で、びゅんびゅんびゅんびゅん回せない組織は参戦する資格がなくなってきています」

その分、重要性を増しているのがディストリビューション(販路・顧客基盤)だ。SNSでのフォロワー基盤、コミュニティとの共同開発、そしてエージェント間での流通——売り手も買い手も、AIエージェントという時代を前提に戦略を組み立てる必要がある。
また、南場氏が初めて「大企業と組むことが戦略的に重要になってきた」と認めたことも注目だ。自ら起業した経験からこれまでは「大企業との取引は要注意」と言い続けてきた。大企業は、プロダクト開発のスピード感は出しにくいからだ。しかしスタートアップがそのスピードを補い、大企業の顧客基盤や販売チャネルを活用する組み合わせの価値が、AI時代に入り初めて現実的になってきたという。
