あえて影響範囲が"大きい"領域からAI導入を その理由は……
──昨年は日本で「AIエージェント元年」ともいわれましたが、まだ実装が進み切ってはいない印象です。一方で、世界的には「エージェンティックAI」に視点が移っていますよね。2つの概念は混同されがちですが、どう定義されていますか。
Bhaskar Roy氏(以下、Roy):AIエージェントは、特定のタスクを非常にうまくこなすソフトウェアだと考えてください。カスタマーサポート専用のように目的が特化しています。それに対してエージェンティックAIは、すべてのAIエージェントがうまく機能するためのインフラ。AIエージェントが特定業務を担う「従業員」なら、組織全体の仕組みに関わるのがエージェンティックAIです。
エージェンティックな企業は、業務運営のコスト効率が非常に高く、収益の成長も著しい。米国のある企業では、AIエージェントを営業に導入し2,000万ドル以上の売上増加を達成しています。顧客ニーズの把握、通話中の事務作業の自動化、見積もりの自動生成、見積もりから入金までのプロセス管理といった各作業に特化したAIエージェントが、営業担当者を一貫してサポートできる体制だからです。ほかにも、AIエージェントを活用して約4,900万ドル規模の不正を検知できたとされる事例が報告されています。
──そういった米国企業と日本企業にはまだ距離があるように思います。それぞれの現状をどう見ていますか。
Roy:米国はとにかくスピード重視。2025年を振り返ると、ほとんどすべての企業がAIエージェントの実証実験やPoCを行っていました。ところが、2025年から2026年にかけてその姿勢に変化も見られます。実証フェーズを終え、どうビジネス成果にまでつなげるかが大きなテーマとなっているのです。
そんな米国と比較すると日本は非常に慎重です。プロセスの正確さを重視し、スケールする前に必要な体制をきちんと整える傾向があります。これを弱点と捉えるケースもありますが、私は日本特有の強みだと考えています。
現時点で日本は米国より1年~1年半ほど遅れているかもしれません。ただし、ここからが重要なポイントです。米国は今まさに乱立したAIエージェントを管理する仕組みを後追いで構築している最中。しかし日本は、インフラやセキュリティ、ガバナンスを先に整えてからスケールしようとしている。アプローチが逆だといえます。
つまり、日本企業は基盤が整った瞬間に一気に加速できるでしょう。その上、労働人口の減少という社会課題も追い風となっています。今すぐ行動を起こす必要性が高まっているのです。
日本企業に一つアドバイスをするならば、インフラやガバナンスの整備を「正しいことをやらない言い訳」にしないでほしいです。社内で合意形成が必要な意思決定において、多くの方がリスクを挙げて動かない。まずは最初の一歩を踏み出して仕組みを作り始めるべきです。
──具体的に、日本企業はまず何から手をつけるべきでしょうか。
Roy:一般的には、簡単かつ影響範囲が小さい領域から着手すべきといわれますよね。しかし、私はそれが時代遅れだと思っています。
過去1年でAIは大きく進化しました。できることが格段に増えた。だからこそ、最大のビジネス課題から始めるべきではないでしょうか。技術的なPoCではなく、ビジネス成果をゴールにしたほうがいい。そうすれば、必要なインフラも自然と整っていきます。
