「会社が生き残れないかもしれない」──危機感こそチャンスに
浦本:景気が良いときは、なかなか変わろうとしないものですよね。私が日本IBMに入社した直後の1991年から1993年にかけて、IBMは巨額の赤字を出し倒産寸前まで追い込まれました。そこからRJRナビスコからルイス・ガースナー氏がCEOとして参画し、見事に立て直した。それに対して、日本の大企業には「会社が生き残れないかもしれない」という危機感が乏しいと感じることも多いです。しかし、現在の当社は生き残りをかけて構造改革を積極的に行っています。これを私は、むしろ変革のチャンスだと捉えています。
AIを活用しない手はないですが、「ROIをどう出すのか」「どのぐらいの利益が出たのか」と問われると、答えるのが難しい。本当に会社の成長に貢献したといえる成果が必要です。Microsoft Copilotで壁打ちをしたり議事録を自動生成したりする段階から、一歩踏み込みたい。
そのためには、業務プロセスや働き方自体を見直すことから始める必要があります。自分が行なっている一連の業務について「それが本当に最適なのか」「不要な作業はないか」を問い、業務そのものを再設計しなければ、大きなコスト削減や売上増にはつながりません。特に日本企業の場合は小さな成功を重ねることは得意なのですが、なかなかスケールしないのです。現場からの小さな改善とともに、トップダウンによる大きな変革が求められます。
森:世の中のDXやAXの視点も変わり、何を求められるか、そして逆に何を求めるかという問いが一段と深まってきているように思います。2017年当時と比較すると、グループ全体で変化はありましたか。
浦本:3年離れていましたが、業務そのものは大きく変わっていません。化学は伝統的な製造業で、一つの製品を長く生産し続けるからでもあるでしょう。日本IBMから化学会社に転職して驚いたことの一つは、製造や販売にまつわる情報の重要性が長く保持されることでした。IT業界では情報が1年ほどで古くなるのに、化学業界では20年、30年も前のデータが今も使えます。
森:たしかに、化学式は普遍であり、古くなりませんからね。
浦本:そのため、長きにわたって同じことをつづけてきた化学会社には、形式知・暗黙知を問わずデータやノウハウが蓄積されやすいです。長年勤務される方も多く、情報が豊富だという意味では、AIとの相性はむしろ良い業種だと考えています。
森:日本の化学業界は品質が非常に高く、ほぼ理論値どおりのアウトプットが出るほど効率化が進んでいます。裏を返せば、AIに頼らずとも高効率なプロセスがすでに完成されているのではないでしょうか。それがある種の足かせにもなります。完成されたプロセスをどう変えるかは悩ましいところですね。
浦本:そうですね。生産プロセスそのものは大きく変えようがありません。ただ、その周辺には、計器や最終製品の目視チェック、生産計画の最適化、納期の調整など人手に頼る工程が多く残っています。工場ごとに"神様"のような社員が存在していて、その人にしかできないこともあるのです。しかし、人には寿命があり、永遠に働けるわけではありません。かつて団塊世代の退職が懸念された「2007年問題」は雇用延長で乗り切りましたが、その方々も現在70歳を超えています。人材が減っていく中で、ベテランの技術を機械へどう移行するかが課題です。
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藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)
1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。
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