タイミングよくAIの波がきた──これまでのDXと何が違う?
博報堂DYホールディングス CAIO 森正弥氏(以下、森):SUBARUの現状はいかがですか。
SUBARU CIO 辻裕里氏(以下、辻):ご存知のとおり、米国の追加関税や環境規制の大幅な緩和など様々な外部環境の影響を受け、2025年度の営業利益は10分の1に落ち込みました。今、会社の体質改善を急いでいる状況です。“筋肉質”な会社にしていきたい。以前から掲げていますが、「モノづくり革新」「価値づくり」の2軸で経営改革を進めています。
森:これまでのDXによっても、社内環境や企業体質は大きく変わってきましたよね。
辻:そうですね。私は7年前の7月に入社しましたが、当時は本当にびっくりしました。こんなにかっこいい自動車を生み出しているにもかかわらず、なぜここまでアナログなのかと。給与明細は紙でしたし、決裁も紙の書類に直接ハンコを押さなければならない。ウェブ会議の概念すら浸透していなかったのです。
その状態からコロナ禍に突入し、恐ろしい1年を過ごしました(笑)。その前後も含めて、部門間の壁を取り除いたり、現場の困りごとを理解している総務部と兼務して業務を標準化したり、IT組織の再編も行ったりと、周囲に協力していただきながらDXを進めてきました。結果的に、今やっと“AX”に挑戦できる段階まできています。
森:仕組みの変革と同時に、働いている方々のリスキリングに関する課題も生まれます。新しいデジタルツールやAIツールを導入すると、現場はそれらをキャッチアップしなければならない。しかも、SUBARUの社員数は競合他社と比較すると少ないとはいえ、単独で2万人近い規模です。どう取り組まれたのですか。
辻:最初は非常に保守的な会社でした。新しいツールを導入するとなると、そのマニュアルを作成して説明会もして、決まったオペレーションでのみ運用する仕組みしかなくて。そのまま社員の在宅ワークが始まったために、現場も「これでは仕事にならない」と実感する経験をしたのです。
この経験を経て、社員のマインドは変わったと思います。新しいツールが導入されると、自ら使おうとしてくれます。振り返ってみても、当社のDXの大きな1歩でした。さらに、タイミングよくAIの波がきたわけです。
森:なるほど。ちょうど波に乗ってきたところなのですね。お話を聞いて思い出したのですが、米ハーバード大学のロナルド・A・ハイフェッツ氏は、企業の課題が「技術的問題」と「適応的挑戦」の2種類に分かれるとしています。多くの課題は、実は技術的問題ではなく、組織変容やチェンジマネジメントの側面が強いそうです。これは、SUBARUのケースにも当てはまりますか。
辻:たしかにそうですね。これまで、現場も積極的にDXに取り組んでくれました。特定の部署で実際にやってみて価値があれば、そこからどんどん横展開をしていったのです。少しずつ全社的な活動になっていったことは、非常によかったと思っています。社員も「うちの会社はかっこよくなった」と言ってくれるほど、大きく変わりました。
一方で、実はAXはこれまでのDXと少し違うと感じています。AIは、ボトムアップで少し活用するレベルのものではないかもしれない。そう考え、AXを進めるにあたっては、今までとやり方を変えることにしました。
