社内でAI変革の鍵を握る人物とは……新たなリーダー像
辻:生成AIが一般に公開された当初は、現場で少し使ってみる程度の温度感でした。しかし、昨年「Deep Research」が公開されたときに衝撃を受けました。実務で「試してみる」ような世界の話ではないと気づいたのです。これをきっかけに、まずは経営トップがAIの原理原則を理解する方針に一変しました。
森:今までとは違うぞと、方向転換をされたのですね。経営のトップがコミットすると、変革の進み方も大きく変わりますよね。
それと同時に、経営がビジョンを掲げても、なかなか現場には浸透しないケースも耳にします。どう現場の環境を創るのか、目標を立てるのか。この課題に対して、私は日本の企業では管理職が重要なのではないかと仮説を持っています。辻さんも、管理職が変革の鍵を握ると過去にお話されていましたが、AXに関してはどうですか。
辻:前提として、「経営層がまずAIの原理原則を理解して、真っ先に自分自身を変える」「管理職は時代に合わせてマネジメントの形を変え、組織の垣根を越えて部下を支援する」「実務側は自らの生産性を上げる」という3層が重要だと考えています。
AIの活用が“点”のままだと、その効果が経営の数字になかなか表れません。これらを連携して“面”にしようとすると、鍵を握るのはやはり管理職です。
ただ、この方針を掲げて昨年1年間AXを進めたところ、管理職層の変革が遅れてしまいました。管理職も個人の仕事の改善はできたものの、ビジネスプロセスにまでは着手できなかったのです。
今までのように部下の進捗管理をする仕事は、これから不要になります。5日かかる仕事が、1分に短縮されるような時代です。そんなスピードの中でマネジメントをすることは、非常に難しいでしょう。では、管理職が何をするのか。私は、ビジネスプロセスを変えるリーダーになるのだと考えています。
そこで、各部門に生産性向上リーダーというポジションを新たに設置し、部長陣・課長陣に就任してもらいました。たとえば、10人必要だった仕事の担当者を7人に削り、残りの3人は新しい仕事をするなど、AIを活用して生産性を上げていくことがミッションです。
私は、これが「ビジネスアーキテクト」という仕事なのかもしれないと考え始めているのですが、どう思われますか。
森:おっしゃるとおりだと思います。ビジネスアーキテクトは、組織の生産性を上げるプロセス設計やそのリードができる人間である──納得感があります。
最近、さまざまな企業で「AIを活用しているチームが、なぜか生産性を下げている」という話をよく聞くようになりました。こうした現象を裏づけるような研究もあります。2024年、Nature系列の学術誌『Nature Human Behaviour』に、人間とAIの協働に関する106件の実験研究をまとめたメタ分析が掲載されました。それによると、人間とAIが組んでも、多くの場合、人間だけもしくはAIだけで取り組んだときの成績を超えられなかったといいます。
ただし、例外もあるのです。人間の判断がAIを上回るような領域、具体的には深い業務知識や顧客理解が問われる仕事では、人間とAIの組み合わせがどちらか単独よりもよい成果を出していました。
辻:なるほど。そう考えると、経験を積んだ管理職層を生産性リーダーに任命する当社のやり方は間違っていない気がします。
森:私もそう思います。そのアプローチにたどり着かれたことは、素晴らしいです。1年後に結果をぜひお聞きしたいです。
