AIエージェントを社員数以上に 経営戦略で掲げた人間中心のAI活用
昨年、AI推進チームを新たに立ち上げたANA。OpenAIのGPT-3が登場して以来、デジタル変革室の部長陣全員で生成AIの活用について議論を重ね、取り組みを進めてきた。その背景にあるのは、コロナ禍で再認識したデジタルの重要性だ。
当時の航空業界が甚大な打撃を受けたのは誰もが知るところだろう。ANAでも生き残りをかけて事業継続にフォーカスしていたため、大胆なDX投資は難しかったという。それでも、2021年から部門の壁を越え、膨大な全社データを横断的に集約する基盤「BlueLake」の構築に取り組んできた。それが結果的に「AI活用への種まきの一つとなった」と木住野氏は振り返る。
2025年からは収集したデータを“知的資本”と捉え、活用強化を掲げた。さらに、2026年1月に発表された中期経営戦略では、AI活用に向けたANAの本気度がうかがえる。2030年までに2,700億円のDX投資を行うとしたのだ。そこにはAIの存在が外せない。
「グループを総デジタル人財化したい。2030年にはAIエージェントを全社員と同等、もしくはそれ以上に増やしていく方針です」(木住野氏)
ANAグループの従業員数は全体で4万人強にのぼる。そのうち約1万5,000人のバックオフィス部門は、既に全員がほぼ毎日AIを活用している状態だ。一方、空港のグランドスタッフや客室乗務員などはデスクワークが少なく、活用機会は限定的と思われがちだが、この1年で活用者は約2倍に増加している。
AI活用者を増やすと同時に、同社ではAIやデジタル、データの活用を前提に従業員のビジネスデザイン能力を高める教育にも力を入れていく。デジタル活用を強化する中、企業としての強みを“人”だと定義した。
「私も整備士出身ですが、ANAには人でしかできない仕事がたくさんあります。当社が掲げるのは『Digital by Default × Human Premium』の考え方。デジタルに任せられる仕事はすべて任せ、お客様へのサービスといった人ならではの仕事にリソースを集中させようとしています」(木住野氏)
その鍵を握るのは、接客ノウハウや現場の判断といった非構造化データだ。ANAのように接客人材が多い企業にとって、一人ひとりが持つ暗黙知は大きな強み。それによって生まれる「コンテキスト(文脈)」が、AI前提の社会において1番の差別化要素となる。しかし、暗黙知をどうAIに学習させるかは多くの企業が最適解を探している段階だろう。ANAではベテランのノウハウ継承にどう取り組んでいるのか──。
