企業がまず始めるべき? フィジカルAIの実装、なぜ差がつくか
フィジカルAIの活用にデータが欠かせないのは大前提だが、ロボットを用意して暗黙知を学習させただけで想定通り動くわけではない。運用していくためには、そのためのルールや環境の整備が必要となる。将来的には工場でロボットだけが動き回る可能性もあるが、現実的に考えると、まずは人間とロボットの協働フェーズを挟むはずだ。
「現在、工場などで活用されている産業用ロボットは、同じ現場で働く人がケガをしないための安全基準が定められています。しかし、ヒューマノイドには明確な基準を定めることが難しいのです。一般的なスタンダードは、まだ存在していないといえます」(米田氏)
安全面だけでなく、そもそもフィジカルAIを動かすための通信環境が整備されていないケースも珍しくはない。他の作業にAIを導入するにしても、まずは設計書をデジタル化する作業は必要だろう。データの世界でAI-Readyといわれることは多いが、実装環境にもAI-Readyは求められる。石本氏は「従来のDXにどこまで取り組んできたかで、差が生まれるのではないか」と指摘する。
「DXにおいては、最初からすべてをデジタル化するのではなく、業務工程の最適化から行ってきたはず。同じことが、フィジカルAIの実装にも必須です」(石本氏)
一方で、日本の製造業におけるAIリテラシーは高まっている。生成AIの登場時は「AI=魔法の杖」のように捉える人も少なくなかったが、フィジカルAIの領域ではどこまでが可能で、どこからが難しいのか理解している経営層が多いという。
「さまざまな企業からフィジカルAIに関する相談をいただきますが、現実的なラインを経営層と探っています。フィジカルAIに夢を見るというよりも、次の課題にしっかりと目を向けている印象です」(米田氏)
「今までどおり人間がものづくりをつづけながら、少しずつロボットに業務を移行していく。この考え方が経営視点で重要だと思います」(石本氏)
現在、三菱電機らと具体的な事例をつくっている最中の燈だが、日本のフィジカルAIには期待をよせている。
「従来のロボットではできなかったことが、できるようになる。世の中に届けられる。当社としては、その姿を見せていきたいです」(石本氏)
「もちろん、フィジカルAIだけに注力するわけではありません。しかし、フィジカルAIはまさに黎明期であり、重要トピックです。自社でもデータを集める環境をつくり、ロボット関連の組織を拡大していきます」(米田氏)
職人の引退というタイムリミットが迫る中、燈は日本独自の"運用力"で世界に勝負を挑もうとしている。
