なぜ……部門間で目線が合わない理由
森:AI化にあたって対立はつきもの。クライアント内でも遅かれ早かれ起こる対立を先回りしているとのことですが、実際の現場ではどのようなケースがあるのでしょうか。
砂金:コールセンターの多くはコストセンターと見なされており、応答時間や顧客の待ち時間をいかに減らすかを重視しています。結果的に、無駄をとにかく削ることに集中しすぎてしまう。一方で、経営層や事業部側は顧客体験を改善してほしいと考えています。しかし、現場のKPIが工数やコスト削減だけだと顧客体験とのバランスを取るのが難しい。つまり、すでに「無駄を削る」という正義が浸透している状況で別の正義を差し込むのがハードルとなっているのです。
当社の場合はその間に入って調整していきます。「AIで業務負担が減る分、VOCを商品部に届ける役割にシフトしませんか」と提案するイメージです。仕事の境界線を丁寧に設計することは、まだ人間がやらなければなりません。
森:今の話は非常に示唆に富んでいると感じました。Gen-AX内でのエンジニア同士の対立は、クライアントの代理としての役割を果たしているのですね。
2025年にノーベル経済学賞を受賞したジョエル・モキイア教授が過去の実例を調べた際、「理論的な知識(Propositional Knowledge)」と「実践的な知識(Prescriptive Knowledge)」の相互作用によってイノベーションが起きることを導き出したといいます。今回の組織の話はまさに同じではないでしょうか。文化的な衝突を建設的なインタラクションに変えなければ。
砂金:組織の采配もそうですが、AI化を進める上では社内で報告しやすいようにROIに反映されやすい順に取り組んでいくのも重要ですね。AIで綺麗なデモを作ることはもはや誰でもできますが、現場で例外処理を解像度高く理解し、システムと連携させて動かし、かつ投資対効果が出るように設計するのは容易ではありません。AIモデルのコストは劇的に安くなってはいますが、無駄にトークンを使って「人間がやったほうがいいではないか」という結論になっては意味がない。
わかりやすいデモを求める企業では、事業上の成果が出ていなくてもマネジメント層の意向でプロジェクトが進むことがあります。現場の責任者に本質を理解してもらうための努力は必要です。
森:さまざまなAIツールがあるため導入自体は容易なようにも思えますが、成果にまで結びつけられるかが本質的な問いですね。
砂金:AI化の利益計画は、AIモデルの利用料金など自分たちでコントロールできない外的要因の影響を受けやすくシミュレーションが非常に難しい。AIベンダーのルール変更一つで破綻するリスクさえあります。最新モデルを使う効率性とコストを下げるためのSLM(小規模言語モデル)の自社運用、このバランスをどう取るかが非常にダイレクトに事業計画に影響すると思います。
