AIのメリットは効率化だけか? 手応えは“VOCの厚み”
──今年1月には、AIを組み込んだ新VOCの活用システムの本格運用を開始されました。具体的には、どのように活用されているのでしょうか。
一木:コミュニケーターのワークフローの中に組み込んでいます。新たなCRMを音声認識と組み合わせており、電話なら音声認識のログを、チャットなら応対のログを、AIが要約する仕組みです。もちろん、ハルシネーションはゼロではないため、最後は必ず人が確認します。
これまでは、応対後の「後処理」に非常に手間がかかっていました。コミュニケーターが1件ずつ内容を専用システムに入力する必要があったからです。ただ、次のお客様も待っているため、長い時間はかけられません。中には、30分、1時間と話される方もいるため、「一番言いたかったことは何か」をまとめて入力する必要があります。
しかし、それではどうしても細部の内容を取りこぼしてしまう。たとえば、「ずっと気に入っていた商品が店頭で『ない』と言われ、どこを探してもなかった」という実際の会話が、「この商品はどこで売っていますか」という一言にまとめられてしまうのです。AIであれば、長いログでも要約し、対応の種別ごとに分けて入力してくれます。結果的に、これまでの後処理では拾いきれなかった細部までカバーでき、蓄積されるVOCの厚みがぐっと増しました。
これが、分析にも大きなメリットとなります。扱える情報量が多くなる分、精度が上がり、視点も広がる。なぜ好きだったのか、どこで断られたのか、代わりに何を求めているのか。そうしたインサイトまで残るようになり、VOC分析の質が大きく変わったと実感しています。
──導入にはどの程度の期間を要したのですか。
一木:過去のシステムは10年ほど使っており、EOLを迎えるタイミングだったのが導入のきっかけです。プロジェクトには3年ほどかかりました。このシステムは品質管理の仕組みも兼ねているため、品質保証部やIT部門とかなり密に連携をしながら、検証を繰り返して本格導入に至っています。
当初は、AIが想定どおりに動いてくれないことも多かったです。そのため、細かいチューニングを重ねました。その上で、新しいAIのワークフローにいかに人が一緒に乗っていくかが、最も重要なプロジェクトでした。
──3年は、長い道のりですね。
一木:そうですね。新システムを最も触るのは、やはりコミュニケーターです。本格運用前にも、長い時間をかけて操作トレーニングを行いました。それでも最初は「不安だ」「使いこなせない」「分からない」という声が先行し、正直、大丈夫かと心配もありましたが、ローンチ初日に「いける」と確信しました。メンバー全員が、スムーズに使いこなしてくれていたのです。AIで便利になるとはいえ、新しいシステムの活用は心理的ハードルが高いといえます。結局は人が使えるかどうか。新しいものへの不安を払しょくするためには、足元の活用こそが重要です。
──具体的な成果はいかがですか。
一木:正直なところ、劇的に工数が減っているわけではありません。今はAIを育てている段階で、不自然な挙動は人が確認して直しています。AI任せにしない運用をしているためです。よく「工数○○%削減」といった事例を各社が挙げますが「導入しただけですぐにそのレベルに着地できるわけではない」のが実際のところです。時間をかけて磨いていきます。
一方で、手応えもあります。私たちは、分析レポートだけでなく生ログも関連部門へ毎日自動配信していますが、得られる情報が厚くなった分、「この対応はどう行っているのか」「お客様は何を言っているのか、もっと詳しく知りたい」と、他部門からの相談が増えました。以前の画一的な記録であれば流れていた声に、興味を持ってもらえる。お客様起点は、当社創業以来の精神です。それがさらに社内へ根づいてきた。これが、一つの大きな成果だと捉えています。
