エージェントが自己増殖する時代、人類は「スーパーヒューマン」へ
孫氏は生命の進化にも話を広げた。地球の生命は「自己増殖」と「自己進化」というたった2つのアルゴリズムでここまで進化した。同じことがAIにも起きる。「もう人間がエージェントを作る時代は終わる。エージェントがエージェントを作り、自ら進化する」と語り、エージェントが100兆個を超えれば、地球上で最も数の多い生命体はエージェントになり、その知能は人類をはるかに超えていくと述べた。
「いいか悪いかは別。なるとしたら、止められない。日本が止めてもアメリカが動く。アメリカが止めても中国が動く」と主張。その現実を受け止め、拒否するのではなく、ともに進化するしかないとし、人類が進むべき道は「スーパーヒューマン」と説いた。
自動車が足を、飛行機が翼を拡張したように、これからは頭脳が拡張される。「AIを拒絶する者は、自らの進化を拒絶することになる。自分専用のエージェントを持ち、経験や思考を学習させて分身として働かせる。そんな働き方が当たり前になる」と語った。分身が夜も週末も働き続けるなら、人間は「自分が一番やりたいこと、一番感動すること」に時間を使えばいい、というのが孫氏の描く未来だ。
その象徴として挙げたのが健康寿命の延伸だった。AIが残りの健康寿命を高い精度で予測し、あと3年と告げられたとする。それを追加で10年延ばせるとしたら、その10年にいくら払うか。孫氏はこう問いかけた。
「生涯稼いだものの3割、いや5割払ってもいいと思う人は多いはずだ。自分専用の遺伝子治療薬やパーソナライズされた医療が実現すれば、そこに膨大な価値が生まれる。それもまさにAI産業だ」すでにAIは専門職の99%を超えた
孫氏は現実にも目を向ける。「ChatGPT 5.6は、人間の専門職の99%をスコアで超えた。医療診断においては99%の医師より的確だ、また、新薬候補の発見は従来の約200倍の速さで実現できる」と語り、AIは部下に聞くより早くて、詳しくて、正確だと評価する。だから、自身で毎日朝から寝る前まで使い倒していると述べた。
一方で影の部分についても指摘した。AIはサイバー攻撃の武器にもなる。ソフトバンクが最先端モデルで自社システムを攻撃してみたところ、1万500件の脆弱性が見つかったという。大企業63社を診断すると、100万行あたり280件と同水準の穴が全社で発見された。
「テストした会社で穴がゼロだった会社は1社もない。皆さんの会社は穴だらけだ」とし、その対策として孫氏は2週間で1,000名体制の防衛部隊を編成し、日本のインフラ系3,000社を守りに行くと明かした。
社長の最大の仕事は「AIだ、と叫び続けること」
締めくくりは経営者へのメッセージだった。孫氏が持ち出したのは「ROA=Return on AI」という言葉で、AIに投じたコストに対し、どれだけ生産性や収益が上がったかを測り続ける指標だ。「最初はリターンが出ない。だが2年目、3年目で一気に伸びる。3年スパンで先を見て投資すべきだ。そして社長にとって一番大切なのは、AIだ、AIだと叫び続けることだ」と力を込めて語った。細かい実務を全部チェックする必要はない。トップの仕事は「我が社はAIで生まれ変わる」と旗を掲げ続けることだ。
「AIが仕事を奪うのではない。AIを使う企業が、使わない企業から仕事を奪うのだ。GDPは伸び続ける。だからこそ業界2位・3位の企業ほど、AIは逆転のチャンスになる」と、今が絶好の機会だとした。
最後に孫氏はビジョンの定義に立ち返った。「ビジョンとは期限と数字。タイムマシンに乗って15年後を見てきたかのように語ることだ。予言者になる必要はない。私は毎日調べて、考えているだけだ」と語った。
15年後の自社の姿を我が事として克明に描き、そこから逆算して今すべきことを決める。「1位になる気概のない人がトップをやってはいけない」と語り、人類未踏のスーパーヒューマンの時代に向けて、経営者の覚悟を問う講演だった。
