「トークンを使え」に揺り戻し、トークンの配分と言語化が経営テーマに
一方のトークンの配分には、早くも揺り戻しが起きている。米国では昨年ごろまで「トークンを使え」とAI利用を奨励する企業が多かったが、この3〜4ヵ月で制御する動きが急に出てきたという。
「営業にライセンスを配っても、個人に閉じたCRMのようなものを作るだけで、会社全体の生産性に貢献しない使い方が結構多く、一方でそれがかさむと利用コストはかなり高額になる。トークンをいかに効率的に配分し、トークン資本を積み上げていくかに意識を置く企業が増えいくのではないでしょうか」(福田氏)
AIのROIは職種で劇的に違う、という視点も重要だ。営業のリサーチや資料作成の支援は従来の常識の範囲内だが、コーディングでは新人とトップのエンジニアで生産性が桁違いに変わることもある。どの職種にトークンを割り当てるかは、経営のテーマになると福田氏は見る。
「導入すれば売上10倍」という幻想は成立せず、AIはあくまで能力の増幅装置である。現場任せの「野良」利用では組織成果は最大化しない。だからこそ、組織成果の最大化は「デザイン」で決まるのだ。
では、業務を「デザインする」力の正体は何か。福田氏の答えは「言語化」だ。営業の世界では、勘に頼った「読みランク」からパイプライン管理へ移行する際、各ステージの状態を定義して共通認識を作ったことで、システムを活用するフェーズに進めた。『THE MODEL』で示した思考も同じで、認知から購買に至る流れの間にどんなプロセスと状態があるかを定義し、そこに人・スキル・テクノロジーを当てはめてきた。
「AIの時代だからどうこうではなく、プロセスをきちんと分解して言語化する能力に尽きると思います。暗黙知をどう言語化していくか。これが最重要スキルなんじゃないかと思います」(福田氏)
個人のAI活用も同じで、AIエージェントを使いこなすには、自分の仕事と思考プロセスを言語化して指示できなければならない。その訓練の有無で、AIを活かせるかが大きく変わる。
「複利効果の差」が致命的になる前に、日本企業は早くトライせよ
日本企業はどうか。PoCで試す企業は多いものの、実用に落とせている企業はまだ少ない。壁となるのは、解雇規制とのバランス、そしてメンバーシップ型の曖昧さとの決別だ。暗黙知に頼った仕事の仕方から、プロセスを定義する仕事への転換は「待ったなし」だと福田氏は言う。
使うことが目的化するリスクも同様で、コーディングが速くなっても、テストやデプロイといった後工程まで全体最適しなければ成果は最大化しない。ガバナンスについても「エージェントが勝手な動きをしていないと誰が保証できるのか。実用段階では非常に困難なところ」(福田氏)と警鐘を鳴らす。
課題は多い。それでも福田氏が最後に贈ったメッセージは、非常にシンプルで「早くトライする」だった。
「これまでのソフトウェアは使う人の能力に依存していたので、早く始めても結果がすぐ出るとは限りませんでした。しかしAIエージェントは、稼働させる中でうまく学習ループを回すことができれば、複利効果でどんどん賢くなっていく。学習にはデータが必要で、コールセンターのエージェント化が早いのも、顧客とのやり取りが圧倒的に蓄積されているからです。早くスタートしてデータを貯め、学習させて成長させる。3年、5年、10年先の差は、取り返しがつかないぐらい開くと思っています」(福田氏)
5月のインタビューで福田氏は「SaaSが死ぬわけではなく、ソフトウェアビジネスが次のフェーズに入っている」と語った。今回の講演が示したのは、その次のフェーズで勝つ条件である。AIを「育てる」こと、そして人とトークンの最適解を「デザインする」こと。出発点は、自社の業務プロセスを分解し、言語化するという地道な作業だ。複利効果の差が拡大する前に、着手できるかが問われている。
