独トヨタが実践、能動的に電話をかけるAI 設計の課題は?
──各社がコンタクトセンターへのAI導入に積極的になっている今の流れは、NiCEにとってチャンスかと思いますが、具体的にAI戦略をどう描いているのですか。
ヘルツヴィヒ氏:私たちが取り組んでいるのは、AIネイティブな顧客体験の場を作ることです。特に今後の労働力不足の影響を考えると、大規模な顧客対応をカバーする方法はAIしかありません。もちろん、AIだけでなく優れた人材を組み合わせることで、より良い顧客体験が提供できると考えています。
先述したドイツ・ルフトハンザが非常に良い例です。同社には電話やチャットで毎日多くの問い合わせが寄せられますが、その数は年間約2,000万件にものぼります。航空会社であるため、嵐やストライキが発生すると、通常1分あたり200件程度の問い合わせが、2万〜3万件にまで一気に跳ね上がるのです。実は4月にパイロットのストライキがあり、3日以上にわたって200万件もの問い合わせがカスタマーサービスに殺到していました。数字を聞けばわかりますが、人間だけでは到底対応できません。
同社の例で重要なのは、AIエージェントが人間の代わりに質疑応答をした点ではなく、航空券の取り直しをはじめ顧客の課題解決を最初から最後まで完結できたという点です。チャットボットに「よくある質問を参照してください」といわれて終わりではありません。問題そのものをAIが解決しきる、というのが目指すべき姿です。
もう1つ、トヨタ自動車のドイツ法人でも良いユースケースがあります。代表的な例がプロアクティブAIである音声ボット「E-Care」です。たとえば、車の警告灯が表示された際、AIが車両の持ち主に「修理の相談に乗ります。ディーラーの予約を取りましょうか?」と能動的に電話をかけます。同社では約1年半前からこの取り組みを行っていますが、一般的にプロアクティブAIはまだ始まったばかりの領域です。
──同社のようなプロアクティブAIを実現するには、どのような仕組みが必要なのでしょうか。技術的なハードルや課題はないのですか。
ヘルツヴィヒ氏:難しさはトリガーの設計にあります。電話を受けてAIが問い合わせに対応するサービスであれば、電話そのものがトリガーになるため比較的シンプルな設計です。しかし、プロアクティブAIのように能動的に動くには「何をトリガーにしてアクションするか」を定義してAIに学習させなければなりません。
前出のトヨタ自動車の場合は、車両のモニタリングデータをトリガーにしていますが、航空会社であればフライト変更なのか、天候なのか。トリガーとなるイベントをどう定義するかが、プロアクティブAIの難しさの本質です。
一方、adidasやHUGO BOSSといったアパレルブランド、物流大手のDHLなどのコンタクトセンターへのAI導入も支援しています。物流領域における主なユースケースは「荷物がどこにあるか」というWISMO(Where Is My Order)への対応です。チャットでも音声でもスムーズに対応でき、返金管理や返品管理、ポリシー案内なども含めて、AIが問い合わせの90〜95%を自動で処理できます。人間が必要なのは、人間の判断を要する例外的なケースのみです。
