ITシステムの価値の源泉は「機能」から「データ」へ
──福田さんはSAPの時代からIT変革の最前線に立ち、富士通ではDXを主導する立場でもありました。IT変革、DX、AXは地続きの流れかと感じておりますが、AIがもたらすビジネスへの可能性について、どのように捉えていますか?
福田:二つあります。一つはITを別次元に昇華させ、圧倒的な価値に変える可能性を秘めていることです。1970年代から2000年頃までをIT化の第1期とすると、ITシステムは「省力化」という圧倒的に分かりやすい価値を生みました。
わかりやすい例でいうと、100人でやっていた経理業務が、ITシステム導入により10人でできるようになったなどですね。こうした省力化の潮流は、特に工場やサービスの現場で顕著で、工場のラインに人がたくさんいたのが、機械化とIT化によって少ない人数で生産ラインを回せるようになった、などはイメージしやすいと思います。
2000年代以降のIT化を第2期とすると、人手からITシステムに置き換える流れは、もうひと段落して、ITシステムをITシステムで置き換える流れとなり、第1期の省人化から、個別最適による品質の向上やシステム間連携によるさらなる省力化が進みました。
AI時代の変革は、この工場やサービスの現場で起こった省人化・省力化が、いよいよホワイトカラーの業務のいたるところで起こることだと思います。例えば会議のスケジュール調整や経費精算、データの集計・簡易な分析やレポート作成といった「庶務」は、あっという間にAIが担うようになるのではないでしょうか。個々の業務だけでなく、経営の意思決定といった高度な領域にまで、AIは広範囲に影響を及ぼすでしょう。
──工場やサービス現場で起こっていたことがオフィスの中で起こるということですね。もう一つはどのような点でしょうか。
福田:ITシステムの価値の源泉が「機能」から「データ」に変わるという点です。これまでのITシステムは「この機能が実装できますか?」という機能が中心の考え方でした。その結果、個々の業務のやり方へのこだわりから、工場や部門ごと、国ごとにバラバラのシステムが乱立しがちで、「バラバラデータ」が生成されがちでした。
一方でAIはデータの品質が命です。質と鮮度の高いデータがなければ質の高いタイムリーなアウトプットにつながりません。AIの品質を向上させるためには、データの品質を上げることが不可欠なのです。つまり、業務プロセスを標準化し、そのままAIが活用できる高品質なデータを生み出すシステムを作るという視点が、AI時代のIT価値創造の源泉となります。