2名で始めた「AI民主化」──草の根活動は何を変えたのか
2022年、マイナビでは、わずか2名体制でAI推進業務をスタートした。デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室に属しながら、「草の根活動」「伴走支援」「ツール整備」「ガバナンス整備」を4つの柱に据え、全社のAI利活用を推進する専門チームだ。
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一時は専任者1名と兼任者1名の実質1.5人体制に縮小しながらも、活動の手は止めなかった。ガイドライン策定、全国26拠点への対面相談会、実践型研修「マイナビ文系AI塾」への900名超の応募、ノーコードAI開発プラットフォーム「Dify」の全社導入……4年間で積み上げた施策は、たしかに数字を動かした。「Microsoft Copilot」の利用率は44.5%から93%に上昇し、専門チームも2025年末には6名へと拡充している。
まさに、数字だけを見れば順調そのものだ。しかし、この成果の裏側では「ボトムアップだけでは超えられない壁」が見えはじめていた。
なぜAIは「熱心な人」にしか届かなかったのか
AI推進チームが直面した壁が数字として突きつけられたのは、2025年後半のことだった。
全社員約8,000名を対象に、AI活用レベルを5段階で測定する調査を実施した(人材育成部主導の「デジタルポータブルスキル[1]学習プログラム(DPS)」の一環として、複数本部が共同設計したもの)。
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調査結果は厳しいものだった。全社調査(n=7,478)で「未活用」9%と「受動的利用」35%──あわせて44%がAI活用が未定着の状態だったのだ。何年もかけて草の根活動を続けてきた中、AIが定着していないという事実は、推進チームにとって重たい現実となった。2024年度時点で「日常業務活用以上」と答えた社員は53.7%。2025年度の目標である80%に向けて、残り約1,100名の引き上げが必要な状況だった。
このときの課題は、大きく2つに整理された。一つは、DPSの認知が弱いために管理職の巻き込みが不十分なこと。もう一つは、AIの未活用層と受動的利用層で障壁が異なっているにも関わらず、一律的な施策で対応していたことだ。
いわゆるボトムアップ型の施策は、任意参加となるため、情報感度が高い社員やデジタルに関心のある社員には確実に届く。しかし、「忙しくて参加できない」「自分には関係ない」「何から手をつければいいのかわからない」という層にはリーチしにくい構造をもっていた。
[1] マイナビでは『職種を問わず、業務の効率化や生産性向上につながるデジタルツール(IT・AI)を効果的に活用するための基礎スキル』と定義している
「AIをまとった部下」にどう向き合うか──管理職42%が未活用という現実
さらに、深刻な状況にあったのが管理職だ。調査では、管理職の42%が「未活用・受動的利用」にとどまっていた。管理職自身がAIを使いこなせなければ、部下へと活用を促すことが難しいだけでなく、管理職経由で浸透させていくという施策も機能しない。
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そして、この問題は思わぬ形で表面化した。人事部門から「新入社員のAIの使い方について、事業部から指摘されている」と相談が届いたのだ。上司の質問をそのままAIに投げ、返ってきた回答をそのまま送る。掘り下げられても、自分で考えていないので答えられない。そもそも上司の指示の背景にある意図──「この質問の本質は何か」「経緯を踏まえたときに求められているのは何か」──を考えることなく、表面的な言葉だけを受け取っていた。
これは営業の現場でも同様だった。初訪問する顧客へのアポイントに向けた情報の収集や提案企画をAIに丸投げし、エビデンスが曖昧なままタスク完了としてしまう。その中には、上司や先輩への連絡文面までAIの出力をコピペしているケースもあるなど、「判断基準の基礎が育たない」という現場の危機感は切実なものだった。
いわば、「AIをまとった部下」。この問題の本質は、部下のスキル不足だけにあるのではない。そもそも管理職がAIを使いこなせなければ、「ここはAIに任せていい」「ここは自分で考えるべきだ」という判断基準を示せない。また、部下のアウトプットがAIの出力そのものなのか、それとも本人の思考を経たものなのかを見極めることもできない。
まさに、管理職のAIリテラシー不足は、チーム全体の質を下げてしまうような問題に直結するリスクだった。
