管理職の行動変容を促す「3つの工夫」 マイナビ流のこだわりとは
管理職が自分の事として捉えられるように、eラーニングのコンテンツでは、1つの問いを提示した。
それは、部下がAIで調査し、メール文を作成し、そのままレビューに持ち込むケースを題材として、「あなたならどのようにフィードバックするか」と問いかけるものである。
あわせて、「目的」「判断」「説明」という観点を示し、どのような確認・指導が可能なのかを検討してもらう設計とした。
ここで重視したことは、正解・不正解を与えることではない。思考のプロセスを通じて、“自分なりの判断”として言語化することにある。
こうした問いを通じて、「選ぶ」「判断する」「説明する」という責任はAIではなく、人に残るということを実践的に理解してもらうことをねらった。そして、この前提が揃ってこそ、「何をAIに任せ、何を人が判断するのか」という判断軸をチームに示すことができ、AI活用はチームで再現される“行動”へと転換していくのだ。
ここまでがコンテンツを貫く基本思想である。では、この思想をeラーニングとしてどのように形にしたのか。ここからは管理職の行動変容を生むため、コンテンツで特にこだわった3つの工夫点を紹介する。
1. 「これならできそう」と思える、小さな成功体験をつくる
前述の通り、コンテンツは「共に考える」設計を基本思想としている。最初の一歩にあたるコンテンツ「スキル習得編」にも、その考え方を反映させた。
スキル習得編では、「AIへの指示が難しい」という心理的ハードルと向き合った。多くの受講者が「何を入力すればいいかわからない」と感じ、一歩目を踏み出せないまま離脱してしまうケースは少なくない。
そこで取り入れたのが、プロンプトをいちから考えさせない設計だ。具体的には、「『AIに任せたい業務』のプロンプトをAI自身に作らせる」というアプローチである。受講者はまず、下記3点をワークシートに入力する。
- 任せたい業務
- 背景・前提
- 制約条件
これをもとに「業務用プロンプトを生成する」ためのプロンプトを作成し、それをAIに入力することで、実務で使えるプロンプトが生成される仕組みだ。
また、ワークの最後には「AIに任せた場合の削減コスト」を可視化するステップを設けた。単なるスキル習得にとどまらず、自身の業務における削減効果を数字で実感することで、「これは使える」という手応えにつなげている。
実際に受講した管理職からは、「難しいイメージをもっていたが、簡単に使えると感じた」という声もあり、心理的ハードルの払拭に一定の効果が見られた。
この「できそう」という感覚は、小さいようでいて、行動を変える最初のトリガーとなる。受講後のアンケートでも、業務へのAI利用意欲を計ったスコアは5点満点中4.6と、前向きな姿勢が数字にも表れている。
2. 「迷わせない設計」に徹底的にこだわる
コンテンツには、eラーニング形式を採用している。管理職は多忙で、受講タイミングもさまざまであるため、自分のペースで進められる形式が最適と判断したからだ。
一方、eラーニングには「途中で止まりやすい」という構造的な課題がある。特に実践ワークを含むコンテンツでは、「次に何をすればいいかわからない」という疑問が生じた時点で、離脱リスクが一気に高まる。
そこで重視したのが、「迷わせない設計」だ。ワーク全体の流れは、下記3つのステップに整理した。
- 自分の業務を振り返る
- AIに任せられる作業を見つける
- 実際にAIを使ってみる
この3ステップで、自然と思考・行動するように促す。また、下記のような工夫も随所に凝らした。
- 入力項目を最小限に絞る
- 手順を細かく分解する
- 動画で補足説明を行う
- AIの使用方法を操作画面の画像付きで明示する
- 具体例を複数用意する
重要なことは情報量ではなく、「迷子にさせないこと」だ。どれだけ丁寧に説明しても、受講者が「今、自分は何をすればいいのか」を見失った瞬間に、学習は止まってしまう。
受講者からは「動画で確認できてわかりやすかった」という声に加え、「デモが用意されており、作業も迷うことなく進められた」といったフィードバックが寄せられている。「迷わない」と感じてもらえたこと自体が、この設計の狙い通りの反応だった。一般的に60分のeラーニングで、実践ワークもあるとなれば、受講完了者が増えないことも多い。しかし、先述した工夫の成果もあり、展開から1ヵ月半で受講完了率は75%に達している。
3. 「個人の工夫」で終わらせず、「チームの標準」につなげる
コンテンツの設計で最も重視したのが、この3つ目のポイントだ。
前編で触れた通り、AI活用が個人にとどまっている限り、組織全体への浸透は進まない。逆に管理職のスタンスが変われば、AI活用は確実に広がる──今回、これこそが施策の根底にある考え方だった。
しかし、「管理職がAIの重要性を理解すること」と「チームで実際に展開すること」の間には、大きなギャップが存在する。そこで、コンテンツには「自分が使えるようになる」で終わらせないため、チームへと展開するプロセスまで組み込んだ。
具体的には、下記のように受講者が自身のチームに置き換えて考えることのできるワークを設けた。
- どの業務にAIを使うか
- メンバーにどう共有するか
- 何から始めるか
ただし、ここで正解を一つに定めることはしない。重要なことは、「小さく始められる粒度」に落とし込むことだ。たとえば、
- 会議でAIに議事録のたたき台を作らせる
- チームに自分が使っているプロンプトを1つ共有する
といった、すぐに実行できる行動を起点にすることで、「まずやってみよう」という空気がチーム内に生まれる。
実際に、この設計が想定以上の変化を生んだケースがある。
とある課長は、研修受講前は「忙しいから」とAIをほとんど利用していなかった。しかし、ワークを通じて、自身の業務と照らし合わせながら考える体験をしたことで、AIでやりたいことのイメージを詳細なプロンプトに落とし込めるようになった。さらに驚くべきは、対話型AIの活用にとどまらず、AIアプリの作成にまで視野を広げ、チーム内の業務を仕組み化するための相談に来たことだ。
自分が使えるから「チームの仕組みにする」へ──まさに、コンテンツの提供によって目指していた変化が、一人の管理職の中で起きていた。こうした小さな実践の積み重ねが、チーム全体の変化につながり、組織としてのAI活用へと広がっていく。
受講前後で、管理職の意識にも明確な変化が見られた。特に注目すべきは、部下にAI活用を促進する度合いを計る、意欲スコアが5点満点中4.5に達したことだ。自分が使うにとどまらず、チームに広げたいという意識が、明確に数字へ表れている。
また、「どう活用を進めるべきかわからない状況だったが、研修を経てイメージできるようになった」といった、チーム・組織単位での意識の芽生えを感じさせるフィードバックも寄せられた。
