強みだった営業力が逆に課題に…… 山善が生成AIに見出した突破口
加藤陸(AI Shift):まずは前田さんのこれまでの経歴と、企業の概要についてご紹介いただけますか。
前田慎太郎(山善):私は2011年に入社し、約10年間、現場で営業をしてきました。その後、2022年に新設されたDX戦略部へ異動し、現在はデータ分析やAI活用の推進を担当しています。当社の事業は大きく二つ。工作機械などを扱う「生産財事業」と、家電などを扱う「消費財事業」です。ビジネスモデルも、メーカー様と販売店様をつなぐ「卸売」から海外での「エンジニアリング支援」、プライベートブランドを展開する「ファブレスメーカー」としての側面まで多岐にわたります。
加藤:営業力を武器にしてこられた山善がAI活用に注力し始めたのは、何か大きな課題や危機感があったのでしょうか。
前田:私たちは、営業社員の「勘(K)・経験(K)・度胸(D)」を磨き上げてここまで成長してきました。「勘」とは、過去の学習や暗黙知に基づき、瞬発的にパターンを認識して最適な仮説を立てる力。「経験」は、現場での成功・失敗の積み重ねから得た実践知。そして「度胸」は、不確実な商売の世界で最後の一歩を踏み出し、その結果に責任を持つ力。これらが当社にとっては非常に重要な要素なんです。
しかし、どうしても感覚が属人化してしまい、全社員がトップ営業のKKDを再現するのが難しいという課題もありました。AIやデータ活用の知見を組み合わせることで、KKDをさらなる成長につなげられないか。そう考えていたのです。
そこで、2022年からDX戦略部でデータ基盤の整備に着手しました。同時に、部長以下全員が機械学習のリスキリングを始めました。当時はChatGPTが発表される前だったため機械学習への活用を想定していましたが、早い段階から準備を進めていたことで、生成AIの登場後もスムーズに対応できる体制が既に整っていたと感じています。
加藤:事業成長や営業の判断力拡張を目指す上で、AIエージェントの構築に舵を切られました。その背景には何があるのでしょうか。
前田:当社の強みである営業力や判断力(=KKD)を最大限に引き出す。今まで属人的だった領域を当社全体の資産として活用する。ここを最も重視して検討しました。
これまでの商談プロセスは、営業がヒアリングで得た情報を1度持ち帰って調査し、提案書を作って再訪問する流れが通常でした。しかし、当社は仕入先も多く商材も多岐にわたるため、特にヒアリングや調査の部分が個人のスキルに依存していたのです。この課題をデジタルでどう解決できるのか模索していたところに生成AIが登場し、非構造化データを取り扱える道が見えてきました。
私たちが目標としているのは、トップ営業のKKDをインプットしているAIエージェントが常に各営業に伴走している状態です。人間が本来得意とする創造力の発揮や対面での判断に専念できるようにAIがサポートしていく。これを私たちは「DAI計画」として2025年4月から推進しています。KKDとAIを組み合わせて、今まで属人化していたKKDを超える「Beyond KKD」の実現を目指します。
