販売員の「なぜ買わなかったか」を集合知にする
押久保:接客そのものにAIを活かしているベストプラクティスはありますか。
林:ある小売企業さんの取り組みが非常に良いと思っています。アパレルの販売現場で、お客様が「買わなかった理由」を販売員さんが接客後に音声でアプリに吹き込むんです。
忙しい現場ではテキスト入力はハードルが高いですが、音声なら30秒から1分程度で済みます。その音声データをクラウドAIで解析・テキスト化して集合知にします。それを見た商品開発部門が「デザインは好評だが素材が不評」という傾向を掴み、次のシーズンに素材を変えて販売したところ大ヒットしたそうです。
押久保:個々のスタッフの暗黙知が、生成AIによって集合知に変換されていくわけですね。
林:そうです。生成AIの能力を使うことで、人がやらずに短い時間で、労力をかけずに集合知化されて共有できるデータになっていきます。百貨店業界で言うと、外商のスタッフが集めた声を集合知化するような使い方が考えられます。こうしたことが広がれば、顧客満足度の向上に直結するAI活用になるはずです。

ロボットが働きやすいビルを設計する時代へ
押久保:その先に、フィジカルAIやロボットと販売員が協働する未来が見えてきますが、見通しはいかがですか。
林:2019年の渋谷パルコオープンの際にロボットを導入して、特定のフロアでお客様のご案内を実装した時期がありました。しかし直後にコロナ禍に見舞われ、運用の普及を断念し一旦休止しています。現在は生成AIの進化により、正確にお答えする能力は格段に上がっていますので、これからが本番だと思っています。
押久保:「ロボットが働きやすいビル」という発想も生まれてくるわけですね。
林:そうです。RFIDを活用した在庫管理で、以前はスタッフがハンディスキャナーを持って読み取っていた作業をロボットに自動化させようと共同開発をしたことがあります。ショップ内の在庫読み取りは精度が高かったのですが、倉庫が課題でした。
ロボットが通る通路がなかったり、奥の商品までスキャンできなかったりするんです。つまり、ロボットに在庫管理を任せるなら、倉庫の設計段階からセットで考える必要があるということです。こうしたハードルはありますが、生成AIとロボットが組み合わさるフィジカルAIの機運は確実に高まっています。
