所長・部長自らAXへ参画 新規事業の人員割合は約15%増
ダイセルは、1919年にプラスチックの1種であるセルロイド事業から出発した。植物由来の原料から化学品を作るバイオマス化学のパイオニアだ。一方で、長きにわたって生産効率を追求してきた一面ももつ。熟練オペレータの約840万件にのぼる工場運転ノウハウを可視化し、運転支援システムに組み込むことで生産効率を約3倍に高めた「ダイセル式生産革新」は、AIという言葉が一般的でなかった時代では先進的だ。中でも同社の一翼を担うセイフティSBUでは、昨今積極的な業務改革が進められているという。
セルロイドの「燃えやすさ」という特性を逆手にとった、自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)を主力商品とする同SBU。その技術開発組織「技術開発センター」が、2023年8月からアクセンチュアと手を組み、AIを活用した業務改革に本格的に乗り出した。プロジェクトメンバーには、技術開発センター所長を筆頭に商品開発部・プロセス開発部・グローバル推進部の全3部門長が名を連ね、組織一体で取り組む構図を明確にしている。
「これまでも、業務改革に向けた全社的なプロジェクトは存在していました。技術開発センター単独でも進めてきた。ただ、多忙の中で一部のメンバーに依存した進め方となり、成果は限定的で継続も難しいのが現実でした。こうした状況を変えるため、外部パートナーと連携し推進体制そのものを見直したのです。組織と個人が互いを尊重しながらサステナブルに成果を出し続ける組織へと変革すべく、本格的な取り組みに踏み切りました。その中で、一人ひとりの生産性を高める手段としてAIの活用を進めています」(波戸元氏)
取り組みの成果はすでに数字として表れているという。2026年3月時点で、タスク量に対するメンバーの作業工数は2023年比1.3倍の効率化を達成。それによって生まれた余力を新規事業領域に振り向けており、新規領域に関与するメンバーの比率は2024年4月の19.4%から2026年4月には33.9%まで大幅に上昇した。
この成果に大きく寄与しているのが、生成AIと過去データを組み合わせたAIアプリだ。AIアプリによる工数削減は多くの企業で見られるが、ここまで具体的なリソースシフトを実現している事例はまだ少ないだろう。現在、次のようなAIアプリが同センター内で稼働している。
- 設計の変化点に対するリスク検証を過去事例に基づいて支援する「DRBFM作成補助アプリ」
- 過去のトラブル事例を自然言語で即座に検索できる「過去トラ検索アプリ」
- 数百万件にのぼるファイルから必要な情報を数分で探し出す「検索性向上AIアプリ」
- メンバーのタスクと進捗を可視化する管理職向けの「プランナーAIアプリ」
こうしたAIアプリの開発に、社内データが不可欠であることはいうまでもない。技術開発センターでは、1980年代から膨大な独自データを積み上げてきた。センター長の波戸元専氏は「これがAI時代に重要な差別化要素となる」と強調する。
ただし、大量のデータをAIに学習させるにも工数がかかる。それにより足踏みしているケースも少なくない。この課題に対して、技術開発センター グローバル推進部 部長の藤﨑陽次氏は「今はデータのクレンジングすらAIでできる」と話す。AIで前処理したデータをAIに学習させたことで、構想から1年ほどでアプリのリリースに漕ぎつけた。一部AIアプリは海外拠点への展開も見据えており、さらなる業務改革に挑む。
取り組みに対して、現場からは少なからず抵抗もあったというが、どう組織を動かしてきたのだろうか——。
