リソースシフトは“順番”が重要 現場の納得感を得る泥臭い変革
人員の総数は増やすことなく、新規事業に携われる人を増やす。リソースを成長領域へシフトする点で組織としては前向きな取り組みである一方で、既存業務の担い手が減れば、残ったメンバーへの負担が増える懸念が当然生じるだろう。
さらに、同センターでは「業務が効率化できたから人を動かすやり方では、なかなか前に進まない。まずは改善による効果を試算したうえで先に組織体制を変え、メンバーが当事者意識を持って変革に向き合う必要がある」という藤﨑氏の判断から、人員配置を先行させた。メンバーがネガティブな感情を抱くのも自然な反応といえる。
こうした懸念に対して、同センターではAIアプリの開発による構造的な業務効率化だけでなく、会議改革など即効性のある施策を組み合わせて負荷の低減を図ってきた。実際、体制変更前と比較すると実は各メンバーの残業時間に大きな変化はない。少ない人数でこれまでと同程度の業務がこなせる環境が整い始めた証拠だ。
また、ワークショップの開催や定期的な成果報告といった丁寧なコミュニケーションも継続。メンバーに負担をかける取り組みであるからこそ、特にその成果を現場に還元することを重視してきた。成果報告はオンラインで済ませるのではなく、100名超の全メンバーを会議室に集めて必ず対面で行う。
報告会はこれまでに4回実施されたが、事後アンケートを見ると取り組みへの受け止め方は確実に前向きに変わってきている。2024年8月にわずか29%だった「AI活用を試行・実践している」人の割合は、2026年3月に49%に。また、2024年8月にはポジティブなコメントが38%にとどまっていたのに対して、2026年3月には58%と半数を超えた。
現場の納得感を醸成する丁寧なコミュニケーションは、アプリ開発のプロセスにおいても同様だ。寄せられたフィードバックを真摯に受け止めて改善し、実際に使うメンバーのモチベーション維持に気を配ってきた。
「変化の速さを考慮し、完ぺきな状態でリリースを目指すことはやめようと当初から考えていました。完成度が60%、70%でも出す。そのため、不具合も発生しますし、現場から不満の声も上がってきます。それは最初から想定していました。だからこそ、メンバーが『自分の意見を聞いてくれている』と思えるように、厳しいコメントも拾って改善し続けています。結果的に活用率の上昇にもつながっています」(藤﨑氏)
それと並行して、技術開発センターが力を注いできたのが教育だ。単なる開発力の向上にとどまらず、世の中の変化に対応し続けるためのDX力強化を目指す。たとえば、AIの活用にかかわらずビジネススキルやデジタルスキル向上をサポートする教育体制も整備したという。
「現場のメンバーからすれば、今までのやり方を変えることに対する不安が強い。その中で我々がやるべきは、一人ひとりの意見を受け止めて地道に対応していくこと、そしてメンバーがモチベーション高く働ける環境を継続的に整えていくことです」(藤﨑氏)
