見えてきたAgent to Agentへの道筋 乗り越えるべき課題は……
「2023年8月のスタートから今まで、大きく見れば期待どおりの歩みといえます。ただ同時に、目標そのものを見直すタイミングが近づいています」(藤﨑氏)
藤﨑氏がそう語る背景には、プロジェクト計画の解像度が上がったことへの手応えがある。改革を始めた当初はぼんやりとしていた2030年の目指す姿が、いよいよ鮮明になってきた。当初掲げていた2030年までに生産性2倍という目標も、新しい事業戦略に合わせて更新される見込みだ。
それぞれのAIアプリが業務に定着し、工数削減という当初の目的を果たしつつある今、同センターが見据えるのはそれらの単独活用を超えた働き方。各AIアプリを横断的に連携させる「エージェント型AI」の実装に向けた準備が始まっている。
「独立していたAIアプリが連携し、エージェント同士が会話しながら物事を進めていく。そして最終的な判断だけを人間が行う。そうした理想図を描いています」(藤﨑氏)
まずは2つのユースケースを試作し、その世界観を実際に体験・検証するところから着手する計画だ。設計メンバー全員が参加するワークショップでは、現在の技術水準を共有したうえで「この技術があれば自分たちの仕事はこう変えられる」というアイデアをひたすら出し合っているという。
結果として、技術開発センターが目指す目標は高い。2026年4月時点で約34%の新規事業の人員比率を、将来的には50%まで引き上げるという。それには、新製品の開発だけでなく、同センター内のDXにフォーカスする部門への異動も含まれる。「世の中の変化は今後も続くため、外部の力に頼りっぱなしではいけない」と藤﨑氏。その危機感から、同センターでは取り組みの完全内製化に向けて、2026年4月にDX推進ラボというプロジェクトも立ち上げた。今後は、DXおよび業務改革の専門組織として部門化する方針を掲げている。
「競争力を高めるためにも、メンバーにはゼロからイチを生み出す仕事に注力してもらいたい。そのうえで、働き続けたいと思ってもらえる場所を作りたいと思っています。私自身が入所した当時、所長に『会社を利用して成長してください』といわれたのです。その言葉通り、我々が学びの場や使えるツールを提供し、メンバーにはその分成果を出してもらう。そういう関係でありたいです」(波戸元氏)
同時に、ダイセルにとって海外展開もまた避けては通れない課題だ。米国・中国・ポーランドに設計開発拠点を持つため、同じAI環境をグローバルに整備することは競争力の根幹に関わる。しかしガバナンスとセキュリティのバランスの壁は厚く、制約を緩くすれば情報漏洩のリスクが生じる一方、厳しすぎれば海外拠点での実用に耐えない。データへのアクセス権限管理を含め、理想の姿から逆算してどこまで何を許容するかを今まさに議論している段階だ。「国内での実装成果を足がかりに、グローバルへの展開基準を固めていく」と藤﨑氏は語った。
こうした技術開発センターの取り組みは、今後セイフティSBU全体へと拡大される予定だという。2026年度の施策はそのための試金石。同センター内でどこまで実現可能かが試される。
