人事こそが最もAIを使い倒す。人事FAQ GPTが社内1位の理由
押久保:御社では、人事のAI活用が特に積極的だと伺いました。背景にある理由を教えてください。
小野:当社のAXの大きな特徴は、プログラマーよりも総合職の仕事がどう変わるかにスポットライトを当てている点です。プログラマーが生成AIで生産性を上げているのは世界中で言われていますが、当社の社員は総合職が圧倒的に多い。そのなかでも人事は、AIで人がやるべき仕事とAIがやるべき仕事の住み分けが変わってきます。将来的には評価制度や働き方の設計にも影響が出る。
だからこそ、人事自身が一番AIを使い倒さなければ、AI前提の制度設計はできない。人事部長がそう述べ、率先して使っています。
押久保:具体的な数字や事例はありますか。
小野:社内に「AIによってビフォーアフターでこう変わりました」とエントリーする改善案件のフォームがあります。このエントリー件数で圧倒的1位が人事部で、これにはかなり驚きました。通常なら構造改革を担っている部署が1位になりそうなものですが、人事が1位という結果でしたので。さらに、社員が誰でも見られるカスタムGPTランキングでも、人事部が作った「人事FAQ GPT」が、ここ数ヵ月不動の1位を維持しています。
押久保:人事FAQ GPTが好まれる理由はどこにあるのでしょうか。
小野:人事に直接問い合わせるほどではないけれど、少し聞きたいことがある──そのような需要を吸収できました。聞く側も気軽ですし、人事側も同じ問い合わせを何度も処理せずに済む。
さらに人事は、自分たちの仕事を楽にするだけでなく、ほかの社員の多くが楽になるものを発案・実装するところまで踏み込んでいる。これがレバレッジとなり、人事FAQ GPTのような全社向けプロダクトが生まれています。

ベテラン社員10名に推進メンバーが「ベタ付き」。属人の塊こそAI時代の主役
押久保:40〜60代のベテラン社員に新たな活躍の場を設ける取り組みもされていると伺いました。
小野:世の中ではAI活用の世代格差が課題視されていますが、当社では真逆の発想で進めています。CSAXを公表する前、役員全員にChatGPT Enterpriseを配り数ヵ月使ってもらったのですが、ハルシネーションに直面しました。
社長を中心にした議論のなかで、「経験を積んだシニアこそ、AIの嘘を見抜く力が圧倒的に強い。シニアが使いこなすのが一番重要だ」という共通認識に至りました。当初は現場に任せながら全社展開を進めていましたが、この春から、シニア活用に一段力点を置いています。
押久保:どのような取り組みですか。
小野:50代後半から60代、定年再雇用で働いていただいている方も含めて、この方がAIを使いこなせたらインパクトが大きい、というベテラン社員10名を選びました。そこに、AIのCoE(Center of Excellence)のメンバーがほぼベタ付きで隣に座ります。
「今日はどの業務から始めますか」「いまの判断はどのような理由からですか」と、一緒に進めながら、カスタムGPTやツールでAI化できる範囲を探っていく。数ヵ月並走し、どこまでAIで代替できるかを見ていく取り組みです。
押久保:印象的だったエピソードはありますか。
小野:この春のキックオフで、選ばれた社員が自己紹介の場で「私は属人の塊です」「暗黙知の塊です」と話されました。そして、これからの自分の仕事は、いかに自分のノウハウを後継に受け継ぐかだ、と。
これまで「人に引き継ぐ」のが当たり前だったところに、「AIにも役割分担して引き継ぐ」という選択肢が加わりました。AI対人間で領域を奪い合うのではなく、AIにお願いした方がよい仕事と、人間がやった方がよい仕事がより明確になり、人間の役割が浮き彫りになる。シニアの現場で、この構図がはっきりと見えてきています。
