PoC止まりから脱し、実装へ 鍵を握るのは各組織のトップ
ガードレールが整い、社員が高度なAI活用ができる状態になっても、実際の業務にAIを実装しなければPoCで終わってしまう。そこで石井氏は「業務そのものへのAIの『組み込み』こそが本番」と位置付ける。そして、グッドパッチ内での実践から「圧倒的にトップダウンで進めるべきだ」と強調した。しかし、経営層が号令を出すこととは異なるという。
「組織は上位層の意思が反映されていくもの。各組織長が、自分の管掌領域のあるべき姿を描き、そこへ向かって動く必要があります」
このとき、現場の課題を起点に施策を考えると、抜本的な変革にはつながりづらい。石井氏はその理由を、縦に事業インパクト、横に過去・現在・未来を置いた図を示しながら解説した。
よくあるのが、図の左側にある「発生型の課題」に目がいくパターンだ。つまり、目の前の非効率なタスクを片づけようとする。しかし、組織が実現したいのはAIを中心に業務を組み直すことであり、そのためにはまだ存在していない課題を設定する発想力が求められる。組織長が未来から逆算して、「設定型の課題」を定義するところから始めなければならない。
「現場はPL(損益)の責任を負っていないため、事業利益への影響まで見据えてAI活用を考えることが難しいのです。現場の課題は解決できても、全体で見ればトークンコストがかさむだけという結果になるでしょう」
もっとも、組織長に委ねたからといってすぐに組織が動くわけではないだろう。そのため同社は、隔週で「事業推進会議」を設け、冒頭で各組織のAX推進状況の報告をすることとした。経営と各組織が足並みをそろえながら施策を進めていく体制だ。こうした取り組みによって、特にバックオフィスで急速にAI実装が進んでいる。
バックオフィスは売上に直接紐づく領域ではない分、コスト削減の効果が見えやすい。一方で、扱うデータの機密性は高く、金融商品取引法や内部統制といった規制がある点で、事業部のAXとは異なる難しさがある。そんな中でも、執行役員と各マネージャーが慎重に手を入れた結果、大きな成果が得られているという。
たとえば、IRの決算説明資料の品質チェックは、かつては2名がそれぞれ4時間、合計8時間をかけて80ページもの資料をすべて確認する必要があった。原典と数字が合っているか、表現に矛盾はないか、説明に抜け漏れはないかなど、確認作業には高い注意力を要する。それが現在は、1人の人間とClaudeが約30分で確認できるようになっている。原典との照合、差異の抽出、確認すべき箇所の洗い出しといった一次チェックをAIが担い、この表現で投資家に伝わるか、この情報を載せて良いか、説明として適切かという判断は人が下す。AIがタスクを分解して役割を組み直し、人が時間を注ぐ先そのものを変えた事例である。
このような実践から得たノウハウを企業のAIネイティブ化支援に活用できる点が、グッドパッチの強みの一つだ。AI駆動開発の導入、AI推進チームへの伴走やアドバイザリー、活用のための研修プログラムなど、支援の幅は広い。業務課題を掘り起こし、人とAIが協働できる環境を一緒に作り上げていくという。これから組織や業務のAXに挑む企業、そして取り組んでいるものの手応えを掴めないままでいる企業に向けて、石井氏は最後にこうメッセージを送った。
「全てをAIに任せるのではなく、正しい期待値を持って人とAIの役割を分けることが重要です。対話や組織の相互作用、意思決定には人間の介在が不可欠。AIにはできない複雑な判断が求められる領域にこそ、人間のリソースをうまく活用してAIと付き合っていきましょう」

