社内で生まれる新しい仕事 業務移行で育成をどうするか?
──Salesforceでは、自社プロダクトのカスタマーゼロとして、早くからAIエージェントの活用にも取り組んできました。人事視点で、どのような成果を感じていますか。
鈴木:昨今よくいわれるFDE(Forward Deployed Engineer)のように、新しい仕事が生まれてきています。たとえば、人事の社内問い合わせの⼀次対応をAIに置き換えていますが、今までその仕事をしていた従業員はAIが最適なアウトプットを出せるようナレッジを整理する「ナレッジマネジメント」を担うようになりました。また、AIの回答のモニタリング、ワークフローマネジメントのニーズも⾼まっています。こうした業務への移行を全社的に進めているところです。
──新たな仕事をするとなると、研修やオンボーディングも必要となりますよね。
鈴木:社員研修はかなり手厚いです。たとえば、バックオフィス業務からいきなり直接的な顧客対応業務に移行するのは負担が大きいですよね。そうした場合は、職場体験のようなトレーニングプログラムを組んで従業員に提供しています。
もちろん、AI研修にも力を入れてきました。AIエージェントの仕組みなど基礎的な知識を学ぶ研修は、約8万人の全社員が必ず受講します。また、その研修には、サンドボックス上でAIエージェントを作って実装するセクションも組み込まれています。さらに、より高度なAIエージェントを構築したり、AI戦略を立てたりするスキルが身に付けられるプログラムなど、学習機会は豊富に用意しています。
──研修やオンボーディングもそうですが、AI前提の社会に変わりつつある中で人材育成の難易度は上がっているのではないでしょうか。たとえば、従業員が複数のAIエージェントを操るとなると、ジュニア層にもマネジメントスキルが求められると考えられます。
鈴木:AIエージェントを束ねるマネージャーというよりも、AIを味方につけたスーパーIC(Individual Contributor)のような存在が台頭するでしょう。つまり、部下をもたず、自身の専門スキルを高めて成果を出し続ける人材が増えるということです。一昔前であれば、そのまま管理職に上がっていたような人が、AIを活用することで多様な情報や経験を得て新しいキャリアを選んでいけるかもしれません。
どちらにせよ、差を生み出すのはAIのアウトプットに自分なりのインサイトを加えられるスキルを身に付けているかどうか。AIのアウトプットに違和感を抱き、自らの意思を反映するタイミングが、人材が育つタイミングでもあります。そして、その感覚を磨くには、自ら見たり聞いたり触れたりして得られる一次情報が欠かせません。自分自身の中でストーリーが出来上がるからです。
加えて、ストーリーを伝えるストーリーテリングの力も、AI時代に非常に重要だと考えています。最近、私はビジネス書をあまり読まなくなりました。以前はビジネス書を自分の頭の中を整理する手段として活用していましたが、今はAIでもある程度まとめられるようになっています。反対に、よく読むようになったのが小説です。様々な登場人物の視点で見えている景色が、彼らの感情も含めて言語化されています。人間とはどのようなものかを立体的に理解していなければ、小説のようなストーリーを描くことは難しい。この体験は、現時点でAIではなかなか得られません。
──一次情報に触れる機会も含めて、そうした体験を提供していくのも管理職の仕事の一つとなるかもしれません。
鈴木:そうですね。新しい体験をして、どういう意味付けをするのか。この考え方自体は新しいものではありませんが、改めて向き合うべき課題だと思っています。
