浮かび上がったAI活用の二極化 VoCで違いが明確に
CCW2026を通じて、AI活用の二極化が浮かび上がっていた。表面的にAIを追加しただけの企業と、顧客理解や顧客接点の中核に組み込んだ企業とでは、得られる成果に明確な差があった。その違いが明確に表れていた分野が、VoC(顧客の声)分析だ。
たとえば、CX管理プラットフォーム大手のMedalliaは、203ブランドを運営する大手クライアント企業1社を対象に調査した結果、問い合わせの背景にある重大な問題点に気づいたという。
同社は、対象企業が2年間で送付した25万件超のアンケートと寄せられた4.8万件のコメントを、「People」「Process」「Platform」の3つの観点で分析した。すると、ユーザーからの「返信がなかった」という声の裏にある根本原因が見えてきた。会話ログをたどった結果、一度に5,000〜2万通ものメールを一斉配信していたことが原因だったのだ。大量送信がスパムと判定され、実際にはユーザーへ届いていなかった。
これを受けて、対象企業ではメール送信を複数回に分散させ、案内文書を添付する策を講じた。問い合わせへの返信は24時間以内に行う一方で、その満足度を測るアンケートは問題の解決を確認し、48時間後に送付する仕組みも整えた。結果的に、顧客からの満足度スコアは3.6から4.1へ改善したという。
ここで重要な視点は、VoCが「報告のためのデータ」ではなく、「改善を回すための運用データ」として扱われていることだ。
あえて「重い課題」からAIを適用 なぜ成功したのか?
私が現地事例を見聞きして強く感じた示唆は、成功している企業ほど「どの課題から着手し、どう育てるか」に重心を置いていることだった。日本企業も取り入れるべき視点は、主に3つある。
1つ目は、「1番重い課題」からAIを適用する点だ。日本企業では、まずFAQや定型の問い合わせ対応に対してAIを実装するパターンが多い。もちろん着手はしやすいが、自動化できても事業インパクトは小さい側面がある。ユナイテッド航空のように、顧客の痛みが強い場所にAIを組み込んでこそ、経営指標に跳ね返る成果が得られるだろう。「始めやすい業務」からではなく、「課題解決の価値が大きい業務」から逆算して導入領域を選ぶ発想は、日本企業にとっても重要だ。
2つ目は、規制が厳しくリスクが高い業界ほど、「人を減らす」より「人が監督する」設計が効くこと。AI導入の議論になると、特に金融、保険、医療といった業界では「本当にAIに任せて良いのか」と慎重にならざるを得ない。これに対してCCW2026では、先進企業が「全面自動化」か「導入の見送り」かの2択で考えているわけではない点が印象的だった。
米国の金融大手・シティグループは、問い合わせに対応するAIアシスタント「Sydney」における取り組みを共有した。「まずはプロトタイプを小さく本番環境にローンチし、人による監督のもとで週次で改善を回す」という設計思想だ。コールセンターの応答記録は実態とずれることがあるため、チャットで顧客が実際に発する言葉を直接収集し、修正・リリースを重ねながら磨き込んでいった。結果として、チャットでの人手を介さない自己解決率は60~70%に達した。
同社が目指すのは、「One Brain, Every Channel」というビジョンだ。全チャネルを1体のAIが横断的に理解し対応する仕組みである。たとえば、不正利用の疑いがある請求を検知すると、まず顧客にテキストで通知が届き、その後顧客が電話をかける。すると、AIが文脈を認識したうえで即座に状況を案内する。モバイルアプリ、WhatsApp、電話、Webチャットのどこから接触しても、同じAIが一貫した体験を提供するという設計だ。
この仕組みの本格運用に要した期間は、PoCに2ヵ月、本番構築に3ヵ月と比較的短い。慎重さが必要な業界ほど、AI導入を止める理由を探すのではなく、どこに人の確認を残し、どの範囲から自動化するかを設計するほうが現実的ということだろう。
3つ目は、PoCは「終わらせるもの」ではなく、「育てるもの」として設計する考え方だ。これが、日本企業にとって最も重要な視点ではないだろうか。「PoCではできる。しかし、本番で使われ続けるものを作るのは別の話だ」という言葉が、複数のセッションで繰り返されていた。
現場でAI定着を支援している私の立場から、この意見には同意する。日本企業のAI・DXプロジェクトは、導入初期には十分な予算や関係者を集められても、その後に運用データを見ながら改善サイクルを回す仕組みまで設計できているケースは多くない。PoCで終わってしまうというよりも、最初から「育てる前提」で作られていないのだ。
ユナイテッド航空やシティグループの共通点は、大規模な一括導入ではなく、小さく本番運用をスタートし、実運用の中で磨き込んでいく姿勢だった。AIツールの選定は、あくまでも「点」の意思決定。使われ続け、改善され続ける「線」の設計が、本番実装の成否を分ける。
コンタクトセンターは「事業成長の司令塔」へ
CCW2026で見えたのは、コンタクトセンターの役割そのものの変化でもある。従来のように、問い合わせを効率良くさばく「対応の場」と捉えるのではなく、顧客の声を集め、構造化し、事業改善につなげる「事業成長の司令塔」として再定義する動きが加速している。コンタクトセンターの課題テーマにおける前年比の推移を見ても、顧客分析とインサイトの向上は、2年連続で経営層にとって最も緊急性の高い優先事項になっている。「CX/VoCの事業資産」として扱うことが強調されていた。
この変化による影響は、日本企業にとっても大きい。AI活用の成果を「何件自動化できたか」「何人減らせたか」で終わらせてしまうと、せっかくの顧客接点が経営資産にならない。むしろ、VoCをどう構造化し、どの兆候をリスクとして捉え、どの改善を売上や継続率につなげるかが重要だ。問い合わせ対応の効率化は、その入口に過ぎない。競争力を生むのは、顧客接点を通じて得られる学びを、商品や営業、マーケティング、カスタマーサポートの改善へつなげる力である。
※文中の図版は現地レポートを参考にテックタッチが作成
