「AIは手段、変革こそが目的」花王が組織統合に踏み切った理由
生成AIの導入が一巡し、多くの企業が今直面しているのは「組織が変わらない」という壁である。PoCは成功した、AIの利用率も上がった。しかし、肝心の意思決定や業務プロセスは以前と変わらない……こうした停滞は技術の不足ではなく、原因は組織設計にあるようだ。
2026年8月に開催されたイベント「AX Day 2026 August」に登壇した、花王の桑原裕史氏が講演で最初に映し出したのは、8年前から使いつづけている1枚のスライドだった。DXの「D(デジタル)」よりも「X(トランスフォーメーション)」を大きく描いたものである。
「DよりもXを大きくすることが重要です。ところが、いろいろな仕事をしていると、気がつけば手段であるべきデジタルを使うこと自体が目的化してしまう。デジタル主体で変革が後からついてくると、ほとんどの場合がうまくいきません」(桑原氏)
デジタル化の時代であれば、手段の目的化は「使われないシステム」「誰も見ないダッシュボード」という形で可視化された。ところがAIは、目的が曖昧なままでも要約や企画案、分析コメントを返してくる。失敗が成果物の形で覆い隠されるため、発見が遅れるのだ。だからこそ、8年前のスライドの重要性はAI時代にむしろ増している。
創業139年の花王では、売上の約24%をケミカル事業が占める。地域別売上では日本が57%であり、「海外進出を強化するにあたっては、DXやAIが不可欠です」と桑原氏。中期経営計画「K27」の達成に向け、AIを中核としたDXを全社推進している状況だ。2018年にDX組織が発足すると、2021年頃から事業部門やSCM部門へと波及していき、2023年に一部を統合。そして、2025年にはDXに関わる組織を「デジタル戦略部門」として一本化し、2026年から本格始動のフェーズに入っている。
統合の理由は、大きく2つ。第一に投資効率だ。DXに関わる予算が各組織に分散しているとプロジェクトテーマが重複し、テーマ管理も行き届かなくなる。第二に、AIの進化スピードである。AIが加速度的に進化している状況下、全社一体としてAI活用の機運が高まっていても、デジタル組織がバラバラだと推進が難しい。だからこそ、AIを組織の中心に組み込むと決めた時点で、一元化は「必然だった」と桑原氏は振り返る。
