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AX Day 2026 August レポート

4,700名の市民開発者を育てた花王 組織統合と「プロブレムファースト」で挑むAI活用

AIを組み込む組織へ──花王が進めるDX推進と人財変革の実践

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4,700名の市民開発者 「プロブレムファースト」という結論

 花王のデジタル活動を特徴づけるのが「市民開発者(シチズンデベロッパー)」である。IT技術者ではないが、身近な業務課題を発見し、ITツールを使って自ら業務プロセスの改善に取り組む社員を指す。2021年に約80名で開始し、2027年に向けた中期計画では3,000名を目標に掲げていたが、2026年時点で約4,700名に達している。

出典:花王株式会社
出典:花王株式会社

 たとえば、花王はコロナ禍で定期券の支給を廃止した。すると、出社ごとに個人で精算するか、1ヵ月分の出社日を調べてExcelに入力した上で経理システムに登録するか、という運用が想定される。しかし、いずれもミスが起こりやすく、時間もかかってしまう。そこで動いたのは、人事担当の市民開発者だった。現状課題を整理し、会社への入退場データと、定期代支給のため保有していた通勤経路データという2つの既存データに着目。そこから2~3週間でプロトタイプをつくり、実運用にもっていった。桑原氏は、「現場課題は、現場の社員にしかわかりません。だからこそ、どこに課題があり、どのようなデータがあるのかを把握している社員自らが開発できることは非常に強みになると思います」と述べる。

 市民開発者の輪を4,700名までに広げられた裏側には、技術教育だけでなく「場の設計」にも工夫があるという。コミュニティをつくり、社内教育プログラム「DXアドベンチャープログラム」に基づいた5段階でのデジタル証明書「オープンバッジ」の贈呈、「EXPO」と呼ばれる成果報告の場づくりなどに取り組んだ。このEXPOは、各国拠点のメンバーが集まるグローバルEXPOにまで規模を拡大している。また、開発環境にも配慮した。市民開発者向けに基幹システムへは直接アクセスできないサンドボックス環境を用意し、ガバナンスを守りながら試行錯誤を止めない設計をとっている。

 当初は自部門・自業務の最適化が中心だった取り組みも、2025年頃には部門横断のソリューション開発が行われるなど、質も向上しているという。「まずは、厳格なルールを設けずに『どんどん開発してください』と促しました。今はしっかりとガバナンスを強化していますが、最初に門戸を広げることで『部分最適ではなく、全体最適で開発してみよう』といった意識が広がりやすかったと思います」と桑原氏。自由に部分最適での開発を経験できたからこそ、「部分最適では足りない」と気づく機会につながったという。そして、2025年頃に市民開発者がAIを使えるようになると、アプリケーションを開発するだけでなく、そこにAIやデータを組み合わせる動きが広がり、市民開発は加速度的に進化した。ローコード開発で培われた裾野が、そのままAI活用の裾野にまで広がった形だ。

 一方、課題もある。まずは、教育プログラムが技術進化に追いつかない点だ。レベル1、レベル2と階段式に全員が段階を踏んでいけるプログラムを組んでいたものの、AIの技術進化が速すぎるあまりプログラムのアップデートが追いついていかない。そこで、現在は目利きができる人財が選んだAIを各部門長の右腕となる社員へ渡すことで、利用しながら横展開しているという。桑原氏は、「ボトムアップとトップダウン、両方からアプローチしなければ技術進歩にプログラムが追いつかない。どこかでプログラム自体を変える必要もあるかもしれません。われわれも過渡期の最中です」と語る。

 また、ミドルマネジメント層の関わり方にも留意すべきだという。AIに興味をもって業務を変えたいという社員がいれば、基本的に任せて、どんどん実行してもらったほうがいい、というのが桑原氏の考えだ。その中で、「そもそも何のためにやるのか」「それは、あなたの趣味なのではないか」といった物言いをマネジメント層がしてしまえば、変革の芽を摘んでしまいかねない。その上で、経営層も加わりながらプロセスや成果を褒めたり、感謝を伝えたりすることも大切になる。「組織にデジタル、AIをしっかりと根付かせるためには、現場社員のモチベーションを高めることが必要です。そして、きちんとトップがそれを見ていることも大切です」と桑原氏。もちろん、マネジメント層にも苦労や事情があるものの、そうした積み重ねが組織全体を強くすると呼びかけた。

 さらに、適切にデータ基盤を構築することも重要だという。AI活用には質の高いデータと十分な量が必須という前提の上で、「何をしたいのかという、アウトプットを考えてから構築することが非常に重要です。『まずはデータを入れてみよう』からスタートすると失敗してしまいます。われわれも失敗を経験しており、結局誰も使わないデータ基盤が生まれることもありました」と桑原氏は述べる。

 そこで、キーワードとなるのが「プロブレムファースト」だ。まずは、課題を特定し、そのために必要なデータはなんなのか。そのためには、どのようなAIが最適なのかを考えることが必要となる。

 「どれだけAIが進化したとしても、プロブレムファーストを意識することが大切でしょう。(この観点があれば)人財・組織が育ち、AIもうまく使えるようになっていくと思います」(桑原氏)

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この記事の著者

岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)

1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。2025...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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AIdiver(エーアイダイバー)
https://aidiver.jp/article/detail/677 2026/08/31 08:00

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