仕事に詳しい人がAIを使う ベテラン10名「経験×AI」
この日の本題は、ベテラン社員10名を対象とした「経験×AI」プロジェクトの最終報告である。説明に立ったシステム企画部の鈴木康平氏によれば、起点はクレディセゾン社長の水野克己氏の言葉だった。
クレディセゾン システム企画部 鈴木康平氏
「AIに詳しい人がAIを使うのではなく、仕事に詳しい人がAIを使うことは新しい価値に繋がる」(水野氏)
AIにはハルシネーションがつきものだが、その誤りに気づけるのは経験の深いベテランだからこそ。そうした問題意識から、ベテランの経験・判断を掘り起こして可視化し、AI活用で業務を再設計し、組織の資産として展開する施策が設計された。
対象者は「高度で重要な業務を担う」「豊富な知見・専門性を持つ」「AI活用の先駆者になれる」の三つの観点から、4部門で10名を選抜。CSAX推進担当者が1名ずつ伴走した。
肝は何を可視化するかにある。マニュアルに書かれているのは「必要な情報を確認し、システムに入力する」といった表面上の手順にすぎない。掘り起こしたのは、その奥にある「判断」だ。
どこを見て判断しているのか。何に違和感を覚えるのか。どの条件なら例外対応するのか。過去のどんな失敗を避けていまの手順になったのか。ベテランの頭の中にしかない暗黙知を、ヒアリングで言語化していった。
約101時間のヒアリングから年2,040時間の削減へ
プロジェクトは2026年4月のキックオフから約5ヵ月間、二つのステップで進んだ。
STEP1(4~7月)では推進担当者が伴走して業務をヒアリング・整理し、暗黙知や判断ポイントを抽出してAI活用を試行。7月の中間共有会では、うまくいかなかったことも含めて10名で共有した。
STEP2(7~9月)では主導権をベテラン本人に移し、自らカスタムGPTを作成して業務に組み込んだ。「伴走から“本人主導”へ」というのが設計の要だ。
ヒアリングした業務は31業務、ヒアリング時間は約101時間。作成したマニュアルは23、AIが参照できる形に整理した判断プロセスは27ファイルに及び、ベテラン社員の業務時間で年間2,040時間の削減効果が出た。
参加者からは「自分の経験は意外と役立っていると気づいた」「無意識にしていた判断の理由や基準を明文化できた」といった声が寄せられた。
同社はこの知見を2026年10~12月に標準手順書やプロンプト例、ナレッジのテンプレートとして整理し、2027年以降は他部門・他業務へ全社展開する予定だ。
事例1:制度改定の要件をChatGPTで「共通言語」に
続いて、10名のうち2名が自身の取り組みを発表した。
1人目は戦略人事部オペレーションDX課の根岸氏。同課は勤怠・給与・賞与・昇給昇格の計算をはじめ、入社から退社までの手続き全般を担い、法改正や賃金制度改定があれば人事システムの改修・設定・検証も行う。
課題は、制度改定に伴うシステム改修の要件定義だった。制度を企画する企画課、要件を整理するオペレーションDX課、設定を担うシステム会社の3者が、概要資料をもとにメールや打ち合わせで確認を何度も往復していた。
企画課は「システム設定上、何を決めておく必要があるのか」の全体像がつかみにくく、オペレーションDX課側も担当者の経験によって確認に差が出る。設定・検証の途中で条件不足に気づくこともあった。
そこで根岸氏が作ったのが「システム要件書GPT」だ。オペレーションDX課が経験から蓄積してきた確認すべき条件や見落としやすい論点を組み込み、企画課が概要資料を添付すると、GPTが不足事項を順番に質問していく。
これで要件の約90%を事前に整理し、残り約10%の詳細論点に絞って担当者間で協議する設計だ。出力は統一フォーマットのWord要件書とExcel進捗管理表で、同じ確定情報から出力するため両者の情報が食い違わない。
「毎月定期的に発生する業務ではないからこそ、案件ごとに対応にばらつきが出ていました。AIを活用し、誰でも使える業務の標準化の一つになったと感じています。AI化された業務も自分たちで育て、進化させていくことが大切だと強く感じました」(根岸氏)
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- この記事の著者
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押久保 剛(AIdiver編集部)(オシクボ タケシ)
立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年にスタートの「MarkeZine」立ち上げに参画。2011年4月~2019年3月「MarkeZine」編集長、2019年9月~2023年3月「EnterpriseZine」編集長を務め、2023年4...
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