「システムを止める手が震える」 人間に残された役割とは
森:ここまでコスモエネルギーグループにおける具体的なDX、そしてその先のAXについて、具体的なアプローチと実践をお聞きしてきました。結果的に、社員にはどう変わってほしいとお考えですか。
ルゾンカ:安定操業を重視するからこそ、これまでは熟練の技術者の指示を受けてそのとおりに進めることが重要でした。しかしこれからは、各社員がAIをフル活用しながら自分ごと化して考え、より的確な判断を下せるようになってほしいです。
たとえばAIが進化し、目の前のロボットが「こうしましょう」と提案してきたとき、それが正しいかどうかを人間の側が理解していなければなりません。知識を「覚える」よりも、「使える」必要があります。
森:一人ひとりが決断力を身につけなければなりませんね。今年2月、インドで「India AI Impact Summit 2026」というカンファレンスがあったのですが、AIの話ばかりするのかと思っていたら、むしろ人間の主体性が重要なテーマとなっていました。
日本政府の「人工知能基本計画」の第2次改定でも、「人間力」に関する議論が生まれています。中でも重視されているのが意思決定をする力、つまり主体性なのです。自分ごと化して物事を考え、判断を下せるという本質的な人の能力をいかに守り育てていくか。それが大事なのだと。
ルゾンカ:まさに、それは基本中の基本だと認識しています。もちろん、仕事の中でわざわざ時間をかけて考えなくてよいこともたくさんあり、それらはAIを使って生産性を上げるべきです。その一方で、自ら考え、決断しなければならない場面も非常に多いです。
当社には、24時間365日止められないシステムが動いています。何らかのトラブルが発生し、そのシステムを止めるとき、現場の社員の方は「手が震える」とおっしゃっていました。当然だと思います。それでも、最終的に止めるのも動かすのも、現場にいる人間です。そのときに正しい判断ができる環境を作ることこそ、私たちの仕事ですよね。

森:最後に、後進の方々に向けて、アドバイスはありますか。
ルゾンカ:これから日本企業に必要なことは、社員の得意分野を引っ張り上げる力だと思うのです。今までは、すべてがまんべんなくできることが正しいとされてきたように感じます。けれど、すべてで100点を取ろうとするより、少し飛び抜けたスキルを磨いてほしい。たとえば、10人のうちの1人になることは難しくても、100人のうちのトップ10に入ることは十分に可能です。その得意なスキルが2つ掛け合わされば、100人に1人の存在になれる。苦手分野は、別の誰かの得意分野であり、補い合えばよいのです。
AIによって、日本企業のジェネラリストの良さの意味も変わります。何でもオールマイティにこなせる人たちにAIという武器を渡せば、それが他者との差別化になる。ただ、今の日本は専門職が少なすぎるとも感じています。もっと増えてもよいのではないでしょうか。そのバランスが、結果的に会社の差別化要因になるはずです。総合職の方々こそ、AIを使い倒すことで、これまでの仕事の枠を飛び越える余地が大きいと思います。
