学びが「巡らない」原因は、思考と実行を分断する縦の壁・横の壁
大企業の変革を実践する中で、Mutureは学びの循環が三つの場所で詰まることを見いだした。
一つ目は、現場の学びが経営まで届かず「学びが巡らない」詰まり。二つ目は、従来の仕事の型によって現場と顧客の接点で「学びが得られない」詰まり。三つ目は、一部の人が学んでも組織全体に届かず「学びが広がらない」詰まりである。
一つ目の「巡らない」から見ていこう。岩野氏がまず紹介したのは、変革の現場で実際に聞いた声だ。
岩野氏は、こうした状況は個人の力不足の問題ではなく、「何をすべきか分からない」状態の中で構造や社内政治への最適化を強いる、組織構造が生んでいる問題だと強調した。
では、その構造とは何か。大企業の組織は、経営層が経営計画の達成に向けて予算と権限を統制し、現場は専門性ごとの分業で効率を追求する。計画された仕事を効率よく実行するには適した構造だが、学習サイクルを前提としていないため、価値探索や仮説検証には向かない。
この構造は二つの壁を生む。一つは、経営から現場までの階層構造がつくる「縦の壁」だ。上りでは、現場の学びが階層を登るたびに要約され、経営には最終的に「順調です」としか伝わらない。下りでは、権限とお金が決裁・予算・評価といった大きな単位でしか降りてこず、前提や判断理由が失われる。
もう一つは、効率化重視の分業がつくる「横の壁」。企画・体験設計・要件定義・開発が部門ごとに分かれ、一つの顧客体験が別々の責任と基準で輪切りにされる。仮説を立てる人と顧客の事実に触れる人が分かれ、仮説から学びまでを丸ごと担える主体が不在になるのだ。
学びが「得られない」原因は、課題より先に解決策が決まる仕事の型
二つ目は「学びが得られない」詰まりだ。従来の大企業の仕事は、課題が決まっている前提で解決策を実行する型に最適化されてきた。設計図を作り、部品を発注して組み立てるウォーターフォール型である。
成果物を計画どおり届けることには強い一方、途中での仕様変更は難しい。そして、成果物ができることと、価値が提供できることは別物だ。課題の特定より先に解決策が決まっていると、顧客からの学びを価値に反映できない。
転換の必要性は、現場も経営層も分かっている。だが現場からは「顧客インタビューをしても『なんとなく良さそう』で終わってしまう。初期フェーズからのやり方を知っている人が社内にいない」という声が上がる。
経営層からも「現場を支援したいが、何をどうしたらいいか分からない。研修に投資しても効果が見えづらい」という声を聞くという。分かっているけれど、どうしたらいいか分からない。これがあらゆる大企業の実情だ。
学びが「広がらない」原因は、個人任せのAI活用と知見の分断
三つ目は「学びが広がらない」詰まりである。AIの導入自体は多くの企業で進んでいる。しかし、導入しただけで使い方は個人に委ねられ、誰に聞けばいいか分からない、日常業務にどう活かせばいいかも分からないまま、個人の試行錯誤に終始してしまう。
うまく使いこなしているチームや人の知見は共有されず、組織に蓄積されないまま、使える人と使えない人の格差だけが広がっていく。
学びが巡らない、得られない、広がらない。この三つの詰まりが、大企業のAXが止まる構造だと岩野氏はまとめた。
では、どう動かすのか。ここからは稲葉氏が、Mutureの実践論を三つのアプローチで紹介した。
株式会社Muture Product Designer 稲葉崇氏

