なぜ心理学のアプローチが効果的なのか? そのアドバンテージ
森:大きな組織の中で、どのようにして全員参加型DXやその先にあるAXを行ってきたのですか。組織規模が大きいからこその悩みや課題があるのではないでしょうか。
ルゾンカ:成功話よりも、失敗話のほうが多いです。全社を巻き込んだDXが必要である一方で、当然ながら現場の安全と安定操業が最優先です。社員たちが現場を優先しながら、それぞれの力を最大限に発揮できる形でDXを進めることを重視しています。
全員参加型といっても、全員が同じ方法で参加する必要はないのです。得意な部分はしっかりと伸ばし、苦手な部分は皆で補い合う方針にしています。本人の気持ちが乗らないのであれば、「自ら使うよりも、AIを活用して業務変革をしている人を応援する」という日があってもいいわけです。これこそ、心理学だと感じています。
毎年アンケートを行っていて、どこの部署がどのようなところにつまずいているのか、一人ひとりにフォーカスを当てながら分析をしています。そうすると「このグループ会社のこの部署は、こんな考え方をする人が多い」と、傾向が見えてくる。それに合わせて、AIスキルを上げる方法を揃えて直接声掛けをしています。とにかく細かくケアをしながら進めているところです。
森:なるほど。その進め方も、心理学と定量的なデータ分析のアプローチが反映されていますね。
ルゾンカ:そのとおりです。アンケート結果を因子分析しペルソナを作って、それぞれに合ったカリキュラムを考えています。今後は、より本格的なAI人材の育成へと取り組みを広げていく計画です。
人材育成においては、スキルのレベル分けもしています。工夫している点は、「ジュニア・データサイエンティスト」や「ジュニア・サイバーセキュリティエンジニア」など、ジュニアレベルは少し頑張れば手が届くように設定してあることです。変革の一歩は、勇気がいりますから。ただし、座学だけでなく“実装”のフローをカリキュラムに必ず入れています。
森:ルゾンカさんの心理学的なアプローチをお聞きして思い出しました。私がインターネット企業のグループに在籍し研究開発を統括していたとき、研究所を8つほど立ち上げたのですが、そのうちの一つの所長は心理学の博士号を取得している人に任せていました。それが非常に上手くいったのです。研究が進んだと同時に、積極的にチャレンジする組織になりました。心理学のバックグラウンドがあると、社員や組織のサーベイの分析や読みほどきから、どのように社員が変わっていくべきか、またその道筋を導きやすいのかもしれません。
ルゾンカ:そう思います。最初の一歩を踏み出す心理的負担を軽減する方法が見つけられるからです。
スモールスタートができるフローを組めば、失敗も小さくて済みますし、前に進みやすい。そのため、小さくてもよいから現場の社員にアイデアを出してもらい、私たちデジタル部門が横でサポートをする仕組みを作りました。「『こんなことができたらいいな』と思うことを書き出してみて」と。これが「Cosmo's DX Hub」という取り組みです。
スタートのハードルを下げる意味で、この仕組みは非常に効果的でした。しかし、その半面、あまりにもプロジェクトの数が増えてしまいました。また、スモールステップを重視するがゆえに、一つひとつがコンパクトになってしまった側面もあります。
森:経営からのトップダウンのビジョン・方針と、現場における実践のボトムアップの両輪が変革における真髄だと感じました。一方で、ボトムアップによる実践は、その効果をどのように測るかも重要な視点だと思います。たとえば、ROIを計算した結果、各プロジェクトから得られる成果が小さくなってしまうケースもありますね。
ルゾンカ:それもあって、今は方向転換をしています。2023年に発表した第7次連結中期経営計画時点のKPIは、創出したプロジェクト数にフォーカスしていましたが、第8次連結中期経営計画からはビジネスインパクトを生み出すことを重視しています。成果として具体的な金額も明確にし、一つひとつのプロジェクトをつなげながら大きくしていきたいです。
